オペル・カデット

オペル・カデット：ドイツを代表する大衆車の歴史

オペル・カデットは、ドイツの自動車メーカーであるオペル社が生産していた乗用車です。第二次世界大戦前後の1936年から1992年まで、幾度ものモデルチェンジを経て生産され続けました。フォルクスワーゲン・ビートルやゴルフ、フォード・エスコートと常に販売台数を競い合うなど、長きに渡りドイツを代表する大衆車として高い人気を誇りました。その車名はドイツ語で「士官候補生」を意味し、オペルの高級車である「カピテーン」「アドミラル」と同様に軍人の階級名に由来しています。

初代カデット（1936年-1940年）：ナチス政権下での誕生

初代カデットは、ナチス政権の支援を受けてフォルクスワーゲン・ビートルの開発を進めていたフェルディナント・ポルシェに対抗するために開発されました。当時オペルの主力大衆車であった「P4」は時代遅れの設計でしたが、カデットはヘッドライトを車体と一体化し、サイドステップを廃したモノコックボディ、デュボネ式前輪独立サスペンションなど、当時としては先進的な技術を採用していました。23馬力の1,073ccエンジンは決して高性能ではありませんでしたが、軽量な車体のおかげで最高速度98km/hを達成、当時の状況下では十分な性能を誇っていました。1938年にはマイナーチェンジを受け、流線型デザインが採用されました。しかし、第二次世界大戦勃発により、オペル工場はドイツ政府に接収され、カデットの生産も終了。生産設備は戦後、ソ連に持ち去られ、モスクヴィッチ400/420の生産に使われました。

カデットA（1962年-1965年）：戦後復活と大ヒット

戦後、オペルは1962年にカデットを復活させました。1,000cc級のエンジンを搭載したこのモデルは、シンプルながらも生産性に優れた設計で、2ドアセダンの他に3ドアワゴン、豪華版、2ドアクーペなどがラインナップされました。軽量な車体は120km/hの最高速度を達成し、フォルクスワーゲンと競合するモデルとして成功を収め、3年余りで64万台以上を生産しました。英国ヴォクスホールでは、カデットAをベースとした「ヴィヴァ」を発売し、カデットとヴィヴァは後の日本の1000ccクラス大衆車である日産サニーやトヨタカローラにも設計面で影響を与えたとされています。

カデットB（1965年-1973年）：4ドアモデル追加と性能向上

1965年には、カデットBが登場。このモデルチェンジでは車体寸法を拡大し、4ドアモデルを追加しました。これは、当時2ドアが主流だったドイツ市場において、ユーザーニーズの変化に対応したものでした。エンジンは1,078ccに拡大され、高性能版にはディスクブレーキが採用されました。1967年のマイナーチェンジでは、サスペンションやエンジンが改良され、さらに高級グレードも追加されました。1972年には、販売が低迷していたフォルクスワーゲン・ビートルの販売台数を抜いて、西ドイツのベストセラーカーとなりました。

カデットC（1973年-1979年）：グローバルカー戦略とWRC参戦

カデットCは、GMのグローバルカー戦略の一環として開発されたモデルです。いすゞ・ジェミニ、ボクスホール・シェヴェット、シボレー・シェヴェットなど、兄弟車が世界各国で生産されました。スタイリッシュなデザインと、様々なボディバリエーションが特徴で、1,897ccのエンジンを搭載した高性能モデル「GT/E」や、カブリオレモデルも追加されました。WRC（世界ラリー選手権）にも参戦し、グループ1、2、4と多様なカテゴリーで活躍しました。

カデットD（1979年-1984年）：前輪駆動化とデザイン変更

フォルクスワーゲン・ゴルフなど、前輪駆動の小型車が台頭してきたことを受け、カデットDは前輪駆動化されました。このモデルはボクスホール・アストラと車体構造を共有していました。デザインはゴルフより一回り大きく、プラスチック部品の多用が目立ちました。エンジンは旧型からのキャリーオーバーに加え、新開発のエンジンも追加されました。しかし、当時としては開発が困難だった横置きエンジン用のオートマチックトランスミッションは、後から追加されました。

カデットE（1984年-1991年）：エアロルックと高性能版GSi

最後のカデットとなったカデットEは、エアロダイナミクスを重視したデザインが特徴です。空力性能を高めるために窓面積が小さくなっており、室内空間はやや狭く感じられました。エンジンは旧型からのキャリーオーバーが主でしたが、高性能版のGSiは156馬力の2,000ccエンジンを搭載し、最高速度220km/hを達成しました。1992年、カデットはアストラに車名変更され、長きに渡る歴史に幕を閉じました。

日本におけるカデット

日本においては、東邦モーターズがAとBモデルを輸入販売していました。特にクーペモデルなどは人気が高かったようです。その後、いすゞ・ジェミニの登場や日本車の成長により、オペルの輸入は中断されました。1982年に輸入が再開されたものの、高価格やトラブルの多さから売れ行きは低迷。唯一、ワゴンモデルのキャラバンは、日本車にワゴンモデルが少なかったことから、一定の成功を収めました。

結論

オペル・カデットは、時代を反映しながら進化を遂げたドイツを代表する大衆車でした。その歴史は、戦後の西ドイツのモータリゼーションを語る上で重要な存在であり、世界中の自動車メーカーにも影響を与えたことは間違いありません。

もう一度検索