オリジン・オブ・シンメトリー

Origin of Symmetry

『オリジン・オブ・シンメトリー』は、イギリスを代表するロックバンド、ミューズが2001年6月18日にリリースした2作目のスタジオ・アルバムです。母国イギリスではインディーズレーベルのTaste Mediaから、日本では6月13日にcutting edgeから先行発売されました。前作『ショウビズ』から進化を遂げた、よりアグレッシブで実験的なサウンドが特徴です。

制作背景

前作に伴うツアーを経て、バンドはカナダの音楽プロデューサー、デヴィッド・ボトリルと共に、後のアルバムの核となる数曲のレコーディングを開始しました。「プラグ・イン・ベイビー」、「ブリス」、「ニュー・ボーン」、「ダークシャインズ」などがこの時期に録音されました。彼らはライブで培ったエネルギーを捉えるため、基本的な演奏を一度に録音し、その上に細部を重ねる手法を採用しました。ボトリルとの作業後、バンドは前作も手掛けたジョン・レッキーのプロデュースのもと、イギリス国内のスタジオで残りの楽曲制作を進めました。

ギタリスト兼ボーカリストであるマシュー・ベラミーは、前作で主に使用していたギブソン・レスポールがライブでの激しいパフォーマンスに耐えられなくなり、新たなメインギターの必要性を感じていました。そこで、エクセターのギター職人ヒュー・マンソンにカスタムメイドのギター製作を依頼しました。完成したギターは「DL-1」、通称「デロリアン」と呼ばれ、アルミニウムで覆われたボディ、フロントにセイモア・ダンカンP90、リアにケント・アームストロング製マザー・バッカーに加え、ローランドGK2a MIDIピックアップを搭載し、さらにはZ.VEX製ファズ「Fuzz Factory」が内蔵された革新的な仕様でした。この「DL-1」が、本作の独特なギターサウンドの構築に大きく貢献しています。

タイトルとコンセプト

アルバムのタイトルと根底にあるコンセプトは、著名な理論物理学者ミチオ・カクが1994年に発表した著書『超空間：平行宇宙、タイムワープ、10次元の探究』にインスピレーションを得ています。この本は、ダーウィンの『種の起源』に匹敵する実存的な問いに応えるため、「対称性の起源」を探求する科学的な探求の重要性を説いています。ベラミーはこの考え方を参照し、「宇宙には確固たる安定性が存在し、その始まりを探ることは、神の存在を明らかにする探求に通じる」と語っており、アルバム全体に壮大なテーマ性が宿っています。

収録曲の特色

本作には、いくつかの注目すべき楽曲が含まれています。特に「フィーリング・グッド」は、アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカッスがブロードウェイのために書き、ニーナ・シモンが1965年のアルバム『アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー』で披露した名曲のカバーであり、ミューズによる荘厳なアレンジで新たな命が吹き込まれました。また、「メガロマニア」では、イングランドのバースにある教会で実際に録音されたパイプオルガンの音が使用されており、楽曲に重厚感と神秘性を加えています。

発売と商業成績

アルバムはイギリスで全英アルバムチャートの3位を記録し、商業的にも成功を収めました。日本ではオリコン週間アルバムチャートで20位となりました。一方、アメリカ合衆国での発売は難航しました。前作に引き続きマーヴェリック・レコーズからのリリースが予定されていましたが、レーベル側がベラミーのファルセットボーカルを減らすための再録音を要求したため、バンドはこれを拒否。結果としてマーヴェリックからの発売を断念し、アメリカでは2005年になるまでワーナー・レコードから正式にリリースされませんでした。

批評家の評価

『オリジン・オブ・シンメトリー』はリリース当初から批評家の間で大きな議論を呼びました。肯定的な意見としては、Q誌が「驚異的な作品」と称し、レディオヘッドとの比較はもはや無意味だと評しました。NMEは「新しいグランジの再発明」と位置づけ、その革新性を評価しました。後年、BBC Musicは本作を「過去のプログレの模倣ではなく、独自の道を切り開こうとする意欲と野心」の表れと評価。音楽ニュースサイトGuitar.comも、それまでの感傷的なスタイルから「SF的シュールレアリズムへの急旋回」を示し、バンドのその後の方向性を決定づけたと指摘しました。

一方で否定的な意見もあり、ガーディアン紙は「信じられないほど大げさで、独りよがりで、ひどい」と酷評。Stylus Magazineの批評家は、バンドの優れた演奏技術は認めつつも、「絶え間ない過剰な演奏が、すべてに水を差している」と手厳しく批判しました。

後年の評価とランキング

賛否両論を巻き起こしながらも、本作はミューズのキャリアにおいて最も重要かつ影響力のあるアルバムの一つと見なされるようになりました。音楽雑誌による「史上最高のアルバム」や「21世紀のベスト・アルバム」といったランキングにも度々選出されています。特に収録曲「フィーリング・グッド」はNMEの「史上最高のカバー曲」で1位に、「プラグ・イン・ベイビー」はTotal Guitarの「過去10年の究極のギター・リフ」で1位を獲得するなど、楽曲単体でも高い評価を得ています。

記念と再発

アルバムリリースから10周年にあたる2011年、ミューズはレディング＆リーズ・フェスティバルで本作を全曲演奏する特別なパフォーマンスを披露し、NME読者投票による同フェスティバルのベスト・アクトに選ばれました。2019年にはボックスセット『Origin of Muse』の一部としてリマスター版が収録され、過去のデモ音源やライブ音源と共に再リリースされました。そして、アルバムの20周年記念となる2021年6月18日には、『Origin of Symmetry: XX Anniversary RemiXX』と題されたリミックス＆リマスター盤がリリースされました。この記念盤では、オリジナルのミックスで除去されていた、あるいは聴き取りづらかったストリングス（「スペース・ディメンシア」「シチズン・イレイズド」「メガロマニア」）やチェンバロ（「マイクロ・カッツ」）といった要素が修復され、新たなサウンド体験を提供しました。

本作は、ミューズがその独自の音楽世界を確立し、世界的な成功への道を切り拓く上で不可欠なステップとなった作品です。革新的なサウンドと壮大なテーマは、今なお多くのリスナーを魅了し続けています。

もう一度検索