オリビエ・ルバスール

オリビエ・ルバスール（Olivier Levasseur）は、1688年から1690年頃に生まれ、1730年に没したフランス出身の海賊です。彼は「海賊周航」と呼ばれる時代に、カリブ海からインド洋へと活動範囲を広げ、その名を轟かせました。

「ラ・ブーシュ（La Buse）」あるいは「ラ・ブーシュ（La Bouche）」という異名で知られるルバスールは、一説には戦闘によって片目を負傷し、眼帯を着けていたともいわれています。彼はナッソーに集結した海賊たちの組織である「フライング・ギャング」の一員でもあり、黒髭やチャールズ・ヴェインといった同時代の著名な海賊たちと共に活動した経験を持っています。

略歴と初期の活動

カレーの裕福な家庭に生まれたルバスールは、優れた教育を受け、後に海軍士官となりました。スペイン継承戦争中にはフランス王ルイ14世から私掠免許を得て、私掠船長として敵船を襲撃していました。しかし、戦争終結後も故国には戻らず、海賊船ポスティリオン号の船長として海賊行為を継続します。1716年にはベンジャミン・ホーニゴールドの海賊団に加わり、「フライング・ギャング」の一員としてニュープロビデンス島を拠点に活動しました。ヘンリー・ジェニングスが主導した、沈没したスペイン財宝船からの銀貨略奪にも参加したと伝えられています。

その後、ホーニゴールドがイギリス船への襲撃を避ける方針を採ったことから一味は分裂。ルバスールはサミュエル・ベラミーやポールスグレイブ・ウィリアムズらと共に離脱しました。彼らは一時的に行動を共にしますが、1717年には再び分裂。ルバスールは自ら約200人の乗組員を率い、ニューイングランドやメキシコ湾周辺で海賊活動を展開しました。

西アフリカでの航海

カリブ海のブランキラ島でイギリス軍艦からの追跡を逃れたルバスールは、アフリカ西海岸へと向かいます。1719年から1720年にかけては、ハウエル・デイヴィスやトマス・コクリンといった他の海賊と行動を共にしました。当初、ルバスールはデイヴィスの船を攻撃しようとしましたが、相手が同業者だと知ると、より良い船を入手するまで共に航海することを提案し、デイヴィスもこれを受け入れました。一行はシエラレオネでコクリンを仲間に加え、ルバスールのブリガンティン船で奴隷貿易の拠点であるウィダーの砦を襲撃・占拠しました。入港してきた船を拿捕した後、デイヴィスは約束通りルバスールに新たな船を与えました。しかし、この共同航海も長くは続かず、口論を経て彼らは別々の航路を取ることを決めました。

史上最大の略奪

ルバスールの海賊としてのキャリアの中で特筆されるのは、1721年4月、インド洋レユニオン島沖での出来事です。ジョン・テイラーと合流したルバスールは、ゴアから出航後に嵐で被災し、サン・ドニ港に避難していたポルトガルの大型船ノッサ・セニョラ・ド・カボ号を発見します。この船には、インド総督エリセイラ伯爵が乗船しており、東洋の貴重品に加え、ポルトガル王への献上品である大量のダイヤモンドが積まれていました。

ルバスールたちはカボ号を襲撃。エリセイラ伯爵は勇敢に抵抗しましたが、白兵戦の末に降伏を余儀なくされました。この襲撃により、伯爵は多くの財産を失っただけでなく、貴重なオリエントの文書類を奪われ、さらにダイヤモンドを失った責任を問われポルトガル宮廷から追放されました。奪われた財宝はサント・マリー島に運ばれて分配されましたが、その価値は驚くべきものでした。ダイヤモンドだけで現代の価値に換算して数億ドルにも達したとされ、その他の積荷を含めると、カボ号からの略奪は海賊史上最大級の収奪だったといわれています。

ルバスールは分け前として、ゴア総督が所有していたとされる「炎のような十字架」と呼ばれる、ルビーを散りばめた巨大な黄金の十字架を受け取ったと伝えられています。しかし、この十字架の話は同時代の記録には見られず、現代の研究では1940年以降に創作された伝説の一部と考えられています。

最期

インド洋での活動中、ルバスールはレユニオン島に物資を届けるフランスの奴隷船を焼却した過去がありました。この行為が許されないと考えたルバスールは、海賊に対する恩赦が発表されても出頭せず、逃亡生活を選択しました。彼は当時無人島だったセーシェル諸島や、マダガスカル沖のマロシ島などに潜伏し、ヨーロッパの奴隷商人や現地の首長との仲介業で生計を立てていた時期もあったようです。

しかし、逃亡も長くは続きませんでした。1730年、ルバスールはマダガスカルのフォール・ドーファン（現在のトラニャロ）で、東インド会社のデルミット船長によって逮捕されます（マロシ島で逮捕されたという記録も存在します）。彼はかつてポルトガル船を襲撃したサン・ドニへ送還され、1730年7月7日、海賊行為の罪により絞首刑に処されました。

ルバスールの墓は後年、観光地となりましたが、彼の遺体が実際にそこに安置されているかは確認されていません。同時代の史料によれば、ルバスールの遺体は埋葬されずに海に流されたとされています。

謎めいた財宝伝説

ルバスールの最も有名な側面のひとつは、彼にまつわる隠し財宝の伝説です。この伝説によれば、ルバスールは絞首台の上から群衆に向かって、隠された財宝の場所を示すとされる17行の暗号文を投げつけ、「解読できる者は、私の宝を探せ」と叫んだとされています。このドラマチックな話は多くの人々を魅了し、現代でもインド洋の島々ではルバスールの財宝を求めるトレジャーハンターたちが探索を続けています。

フランスの歴史家シャルル・ド・ラ・ロンシエールが1934年に出版した著書『Le Flibustier mysterieux: Histoire d’un trésor caché』が、この財宝伝説と暗号文を世に広めた起源とされています。ロンシエールの本の中で、暗号文はピッグペン暗号という方式で記述されていること、そしてその解読結果も示されていました。しかし、解読された内容は財宝とは全く関係のないものでした。

このことから、暗号文自体は存在するものの、それがルバスールや彼の財宝と結びつく根拠は乏しいと考えられています。また、ルバスールの同時代資料には、暗号文や絞首台での演説、財宝に関する言及は一切ありません。処刑時の記録では彼が簡素なナイトシャツを着用していたとされており、暗号文を隠し持つことは困難だったとも指摘されています。現在では、処刑台での財宝に関する呼びかけといった伝説は、ロンシエールによって創作された可能性が高いと考えられています。この伝説は、同じくインド洋で活動した海賊、ベルナルダン・ナジョン・ド・レスタンの財宝伝説とも関連付けられることがありますが、両者の間に直接的な繋がりはないとする見解が一般的です。

サヴィ夫人の証言と財宝探し

ルバスールの財宝伝説の流布には、セーシェル諸島マヘ島に住むローズ・サヴィという女性の存在が深く関わっています。サヴィ夫人は、ある日、島の露出した岩に描かれた謎の文字や符号、模様を発見しました。さらに調査を進める中で、目の図像の近くの地中から、金のイヤリングを着けた海賊と思われる3体の遺体を発見したといいます。

これらの発見を元に調査を進めるうち、サヴィ夫人はフランス語で書かれた著者不明の暗号文を入手したとされています。そして、この暗号文の解読には、古代の魔術書『ソロモン王の鎖骨（グリモワール）』が必要であることが判明しました。サヴィ夫人はこの情報を得て、フランス国立図書館に勤務していたロンシエールに手紙を送り、『ソロモン王の鎖骨』の写しを見ることができないかと打診しました。この手紙がきっかけとなり、ロンシエールの著書『Le Flibustier mysterieux』が執筆されたと伝えられています。

サヴィ夫人がマヘ島で発見をしてからロンシエールと接触するまでの経緯については複数の説があります。一説には、夫人がレユニオン島の国立公文書館に勤務する甥に発見を報告し、甥が文書館所蔵の古文書の中に岩の模様と関連がありそうなものを見つけて送付したものが、ロンシエールの著書に載った暗号文だったとされます。また別の説では、マヘ島の公証人が財宝に関する古文書を所有しており、夫人の発見した図像と組み合わせることで謎が解けると考え、サヴィ夫人と協力した結果、ロンシエールが公証人所有の暗号文を入手したともいわれています。

ルバスールの隠し財宝の候補地としては、モーリシャス島、レユニオン島、セーシェル諸島の各島（フリゲート島、ロドリゲス島、マヘ島）、そしてサント・マリー島などが挙げられ、現代でも多くのトレジャーハンターたちが探索を続けています。特にマヘ島では、レジナルド・クルーズウィルキンスが1947年から探索を開始し、彼の死後も息子であるジョン・クルーズウィルキンスがその事業を引き継いでいます。ジョンは、水中のトンネルを通らなければ到達できない洞窟内に財宝が隠されていると考えて探索を続けています。また、アメリカ軍出身のトレジャーハンター、ロバート・グラフも一時ジョンと協力しましたが、探索場所を巡って決裂しました。グラフは、島に石造りの宝物庫があり、その入り口を探しています。モイエンヌ島の所有者となったブレンダン・グリムショウも島で財宝を探しましたが、隠れ家や奇妙な墓の痕跡は見つかったものの、財宝そのものは発見できませんでした。

文化への影響

オリビエ・ルバスールは、その波乱に満ちた生涯と財宝伝説から、フィクションの題材としても扱われています。1935年の映画「海賊ブラッド」ではベイジル・ラスボーンが彼を演じました。また、ゲーム「アサシンクリード パイレーツ」では、テンプル騎士団がルバスールの財宝を捜索するストーリーが展開されています。

ルバスールの史実上の功績、特にカボ号からの莫大な略奪は歴史に確かに刻まれていますが、彼にまつわる財宝伝説の大部分は後世の創作であると考えられています。しかし、この伝説がもたらしたロマンは、現代も多くの人々を魅了し、インド洋での終わりのない財宝探しへと駆り立て続けています。

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