オルフェオとエウリディーチェ

オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』について

『オルフェオとエウリディーチェ』は、クリストフ・ヴィリバルト・グルックが作曲した3幕構成のオペラです。イタリア語版は『オルフェオとエウリディーチェ』、フランス語版は『オルフェとユリディス』と表記されます。この作品は、グルックのオペラの中でも特に有名な作品の一つであり、オペラ改革の理念を実践した最初の作品として、音楽史においても重要な位置を占めています。

作品の概要

グルックは、1762年に台本作家ラニエーリ・カルツァビージと共に、オペラ・セリア（古典的なイタリアオペラ）の改革に乗り出しました。その成果として誕生したのがこの『オルフェオとエウリディーチェ』です。この作品は、従来のオペラの形式にとらわれず、ドラマ性を重視し、音楽と劇が一体となるような表現を目指しました。初演はウィーンのブルク劇場で行われ、当時から大きな成功を収めました。特に、チェンバロ伴奏のレシタティーヴォを管弦楽伴奏に変更したことは、画期的な試みでした。リブレット（台本）は、ギリシャ神話のオウィディウスの「転身物語」とウェルギリウスの「農耕歌」を基に、カルツァビージによって作成されました。

また、このオペラは、イタリア語で書かれていながらも、フランスのオペラや演劇の影響を強く受けています。カルツァビージが長くパリに住んでいたこともあり、フランスの演劇やオペラの影響が、台本を通じて明確に表れています。グルック自身も、フランスのトラジェディ・リリックやオペラ・コミックに通じており、その影響は音楽にも表れています。この作品は、ベルリオーズやワーグナーといった後世の作曲家たちにも多大な影響を与えました。

初演後の展開

『オルフェオとエウリディーチェ』は、初演後も様々な形で上演され、世界中で愛されるようになりました。イギリス初演は1770年、アメリカ初演は1863年に行われました。日本では、1903年に東京音楽学校の学生たちによって初めて上演され、日本における本格的なオペラ上演の先駆けとなりました。

その後、森鷗外もこのオペラの訳詩を完成させましたが、上演には至りませんでした。鴎外訳での完全上演は、2005年まで待つことになりました。近年では、パリ版の上演も注目を集めています。

1774年パリ版

この作品には、ウィーン版とパリ版という2つの主要な版が存在します。ウィーン版は1762年に初演されたオリジナル版であり、パリ版は1774年のパリでの上演のために改訂されたものです。パリ版では、バレエ音楽やアモーレのアリア、フルート独奏の「天国の野原」などが追加されました。また、フランス語の台本は、ピエール=ルイ・モリーヌによってイタリア語の台本から翻訳されました。

パリではカストラート（去勢された男性歌手）が好まれなかったため、オルフェオ役はオートコントル（高音の男性テノール）に変更されました。これにより、作品全体の規模が拡大し、オペラ座の大編成オーケストラを十分に活かせるように手が加えられました。しかし、カストラートの哀愁に満ちた美しさは失われ、高音テノールの英雄性が強調されることになりました。

1859年ベルリオーズ版

1859年には、ベルリオーズが独自のヴァージョンを作成しました。これは、当時のスター歌手ポーリーヌ・ヴィアルドのために書き直されたもので、彼女の歌いやすいように、また彼女の魅力を最大限に引き出せるように様々な手直しが加えられました。ベルリオーズ版では、オルフェオの声域がイタリア語版に戻され、イタリア語版とフランス語版の良い部分が組み合わされました。また、4幕構成に再構成され、音楽的にも劇的にも優れた箇所が採用されました。特に、最後の合唱は、ベルリオーズの他の作品からのものが採用されました。

ベルリオーズ版は非常に大きな成功を収め、初演後4年間で138回も上演されました。現在でも、ベルリオーズ版のオルフェオはメゾソプラノにとって憧れの役となっています。

精霊の踊り

オペラの第2幕第2場で演奏される「精霊の踊り」は、非常に有名な楽曲です。天国の野原で精霊たちが踊る場面で演奏され、その美しく優雅な旋律は、多くの人々に愛されています。ヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーによってヴァイオリン用に編曲された「メロディ」もよく知られています。

登場人物と楽器編成

このオペラには、合唱として精霊、羊飼い、復讐の女神、亡霊などが登場します。オルフェオ役は、初演時はウィーン版がカストラート、パリ版がオートコントルでしたが、現代ではカウンターテナー、バリトン、メゾソプラノが歌うこともあります。

楽器編成は、ウィーン版とパリ版で異なり、パリ版ではクラリネットが加わり、トロンボーンも増強されています。両版とも、オーケストラに加えてハープが用いられているのが特徴です。

あらすじ

第1幕

オルフェオは、亡くなった妻エウリディーチェを深く悲しんでいます。愛の神は、彼の嘆きに心を動かされ、黄泉の国へ行って妻を連れ帰ることを許しますが、決して振り返ってはいけないという条件をつけます。オルフェオは、この難しい試練に挑む決意をします。

第2幕

黄泉の国の入口では、復讐の女神たちがオルフェオを阻止しようとしますが、彼の歌声によって鎮められます。エリゼの園でエウリディーチェを発見したオルフェオは、彼女を連れて地上へ向かいます。

第3幕

オルフェオがエウリディーチェを連れて地上へ戻る途中、エウリディーチェは、夫が自分を見ようとしないことを不審に思い、疑念を抱きます。絶望したオルフェオは、つい振り返ってしまい、エウリディーチェは再び息絶えてしまいます。嘆き悲しむオルフェオですが、愛の神が現れ、エウリディーチェは再び蘇り、二人は喜びを分かち合います。

オペラの中の有名な楽曲

精霊の踊り
オルフェオのアリア「エウリディーチェを失って」
* 復讐の女神たちの踊り

まとめ

『オルフェオとエウリディーチェ』は、グルックのオペラ改革の理念を体現した傑作であり、その美しい音楽とドラマティックな展開は、今も多くの人々を魅了し続けています。ウィーン版、パリ版、ベルリオーズ版など、様々な版が存在し、それぞれに異なる魅力を持っています。

もう一度検索