オントロジー (情報科学)

オントロジーとは

この記事では、情報学におけるオントロジーについて解説します。オントロジーとは、ある特定の領域（ドメイン）における知識を、概念とその関係として形式的に表現したものです。これにより、ドメイン内の実体（エンティティ）を記述したり、推論したりすることが可能になります。

オントロジーの定義

オントロジーは、「共有された概念化の形式的かつ明示的な仕様」と定義されることもあります。これは、特定のドメインをモデル化するために使用される語彙、すなわち、そのドメイン内に存在するオブジェクトや概念の型、プロパティ、関係などを指します。

オントロジーの活用

オントロジーは、情報を構造化するためのフレームワークとして、人工知能、セマンティックWeb、システム工学、ソフトウェア工学、バイオメディカルインフォマティクス、図書館情報学など、多岐にわたる分野で活用されています。また、エンタープライズアーキテクチャフレームワークの定義や利用においても、ドメインオントロジーの生成は重要な役割を果たします。

オントロジーの概要

オントロジーの起源

「オントロジー」という用語は、哲学にその起源を持ちます。ギリシャ語で「存在」を意味する「ὄν (on)」に由来し、もともとは「存在論」として、何が存在するのか、その存在の本質について考察する形而上学の一分野でした。

計算機科学におけるオントロジー

計算機科学の分野では、オントロジーは、タイプ、特性、および関係の集合として、世界を記述するためのモデルとして捉えられます。実世界とオントロジーでモデル化された特性との類似性が重視されます。オントロジーは、エンティティ、アイデア、イベントなどを、特性や関係とともに分類システムに基づいて表現します。

哲学と計算機科学におけるオントロジーの違い

哲学と計算機科学の双方で、オントロジーは存在論的相対性の問題や、規範的オントロジーの実行可能性といった議論に関わってきました。しかし、両者の焦点には違いがあります。哲学者は、オントロジーを人間の思考のための道具として用いるのに対し、計算機科学者は、コンピュータ処理を考えるための道具として用いる点に違いがあります。

オントロジーの歴史

哲学におけるオントロジー

歴史的に、オントロジーは哲学の形而上学として発展しました。この分野では、存在のさまざまなタイプやモード、特に、特定と一般、内因と外因、本質と実在の関係が研究されてきました。伝統的な目標は、オブジェクトを自然に分類し、その基本的な種別を発見することでした。

計算機科学におけるオントロジー

20世紀後半になると、哲学者は、オントロジーを実際に「構築」するのではなく、構築するための手段やアプローチを議論しました。一方、コンピュータ科学者は、WordNetやCycなどの大規模なオントロジーを構築しました。1970年代中頃から、人工知能分野では、知識獲得が重要であるという認識が高まりました。そして、コンピュータモデルとしてオントロジーを創作することで、自動化された推論が可能になることが議論されました。1980年代には、「オントロジー」という用語が、モデル化された世界と知識システムの構成要素の両方を指すようになりました。

オントロジーの定義の確立

1990年代初期には、Tom Gruberによって、オントロジーの意図的な定義が認められました。彼は、オントロジーを「概念化の仕様」、すなわち、エージェントまたはエージェントのコミュニティのために形式的に存在しうる概念と関係性の記述と定義しました。この定義は、概念定義の集合としてのオントロジーの用途と整合性があり、より一般的で、哲学で使用される用語とは異なる意味合いを持っています。

オントロジーの進化

21世紀初頭には、認知科学の学際的なプロジェクトにより、哲学とコンピュータ科学の両分野の研究者が互いに協力するようになりました。計算機科学の研究者は哲学者の研究を参考にするようになり、哲学者の中には、コンピュータ科学における公式なオントロジーを分析する者も現れました。しかし、両分野の多くの学者は、それぞれの懸念を追求し、独立して研究を続けています。

オントロジーの構成要素

現代のオントロジーは、どのような言語で記述されるかに関わらず、いくつかの共通の構成要素を持っています。それは、個体（インスタンス）、クラス（概念）、属性、および関係です。

エンティティ

エンティティとは、具体的な個体やオブジェクトを指します。これらは、オントロジーにおける基本的な構成要素です。

クラス

クラスとは、概念やオブジェクトのタイプ、または集合を指します。プログラミングにおけるクラスと同様に、オブジェクトの種類を分類するために用いられます。

属性

属性とは、オブジェクトやクラスが持ちうる特性、特徴、またはパラメータのことです。オブジェクトの側面を記述するために使用されます。

関係

関係とは、クラスやエンティティが互いにどのように関連付けられるかを示すものです。異なるオブジェクト間の繋がりを表現するために使用されます。

機能条件

機能条件とは、特定の関係から形成される複雑な構造を指します。これにより、個体の場所や役割を表現することができます。

制約

制約とは、入力として受け入れられるいくつかの主張が真でなければならないと公式に表明された記述です。オントロジーの整合性を維持するために使用されます。

ルール

ルールとは、特定の形式の主張から論理的な推論を記述する、if-then文の形で表された記述です。オントロジーに基づいた推論を行うために使用されます。

公理

公理とは、オントロジーがアプリケーションのドメインを記述する全体的な理論を構成する、論理形式における仮定（ルールを含む）です。ここでは、自明なステートメントだけでなく、そこから派生する理論も含まれます。

イベント

イベントとは、属性または関係の変化を指します。

ドメインオントロジーと上位オントロジー

ドメインオントロジー

ドメインオントロジーとは、特定のドメイン、あるいは世界の一部を記述するオントロジーです。それは、そのドメインに適用される用語の特定の意味を表現します。例えば、「カード」という用語は、コンピュータハードウェアのドメインではビデオカード、ポーカーのドメインではトランプを意味します。

上位オントロジー

上位オントロジーとは、ドメインオントロジーの範囲を超えて適用される汎用的なオブジェクトのモデルです。それは、関連するドメインの集合で様々に使用される基準と関連するオブジェクト記述を含むコアな用語集を採用します。

ドメインオントロジーの課題

ドメインオントロジーは、概念の選択と表現方法に違いがあるため、矛盾が生じることがあります。また、異なるドメインオントロジーを統合する際には、用語や概念の違いが課題となります。共通の基盤となるオントロジーから開発されていないドメインオントロジーを合成するには、手作業による処理が必要になるため、時間とコストがかかるという問題点があります。

オントロジー工学

オントロジー工学とは、オントロジーを構築するための手法や方法論を研究する、知識工学の一分野です。この分野では、オントロジーの開発プロセス、ライフサイクル、およびそれらをサポートするツールや言語を研究します。オントロジー工学は、ソフトウェアアプリケーションやビジネスプロセスに含まれる知識を明示的にするために使用されます。また、オントロジー工学は、ビジネス用語とソフトウェアクラスの定義に関わる障壁のような、意味的な問題によって引き起こされる相互運用性の問題を解決するための方向性を提供します。

オントロジー言語

オントロジー言語とは、オントロジーをコード化するために使用される形式言語です。さまざまな種類が存在し、以下に代表的なものを挙げます。

CASL (Common Algebraic Specification Language)
CL (Common Logic)
CycL
DOGMA
Gellish
IDEF5
KIF (Knowledge Interchange Format)
RIF (Rule Interchange Format)
OWL (Web Ontology Language)
SADL
OBO (Open Biological and Biomedical Ontologies)
MOF
UML

オントロジーの例

以下に、発行されているオントロジーの例を示します。

Basic Formal Ontology
BioPAX
BMO
CCO (Cell Cycle Ontology)
CContology (Customer Complaint Ontology)
CIDOC Conceptual Reference Model
COSMO
Cyc
Disease Ontology
DOLCE
Dublin Core
Foundational Model of Anatomy
Friend of a Friend
Gene Ontology
Gellish English dictionary
Geopolitical ontology
GOLD (General Ontology for Linguistic Description)
GUM (Generalized Upper Model)
IDEAS Group
Linkbase
LPL (Lawson Pattern Language)
NIFSTD Ontologies
OBO Foundry
Ontology for Biomedical Investigations
OMNIBUS Ontology
Plant Ontology
POPE
PRO
Program abstraction taxonomy
Protein Ontology
Suggested Upper Merged Ontology
Systems Biology Ontology
SWEET
ThoughtTreasure ontology
TIME-ITEM
UMBEL
WordNet
YAMATO

オントロジーライブラリ

Web向けのオントロジーの開発に伴い、オントロジーのリストやディレクトリを提供するサービスが現れるようになりました。これらはオントロジーライブラリと呼ばれます。以下に代表的なものを挙げます。

静的ライブラリ

DAML Ontology Library
Protege Ontology Library
SchemaWeb

ディレクトリと検索エンジン

OBO Foundry / Bioportal
OntoSelect Ontology Library
Ontaria
Swoogle

オントロジーエンジンを使うアプリケーションの例

SAPPHIRE

脚注

関連項目

共通知識ベース
統制語彙
フォークソノミー
形式概念分析
形式オントロジー
格子
オントロジーアライメント
オントロジーチャート
オントロジーエディタ
オントロジー学習
オープン生物医学オントロジー
セマンティックウェブ・ルール言語
ソフトオントロジー
用語抽出
弱いオントロジー
Webオントロジー言語
知識体系
セマンティックウェブ

関連する哲学の概念

人間の思考のアルファベット
普遍文字
相互運用性
メタ言語
自然意味論的メタ言語

参考文献

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溝口理一郎 『オントロジー工学』、オーム社、2005年、ISBN 4-274-20017-5
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外部リンク

Knowledge Representation at Open Directory Project
Library of ontologies
Standardization of Ontologies
人工知能学会
人工知能学会 セマンティックウェブとオントロジー研究会
* Gene ontology home

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