オーエックスエンジニアリング

株式会社オーエックスエンジニアリング

日本を代表する車椅子メーカーとして知られる株式会社オーエックスエンジニアリング（OX ENGINEERING Co.,Ltd.）は、千葉県千葉市に本社を構えています。同社の歴史は、オートバイ事業で培われた高い技術力と、創業者自身の経験から生まれた製品開発への情熱に根ざしています。

創業と車椅子開発への道のり

オーエックスエンジニアリングの起源は、1976年11月に創業したヤマハ系のオートバイショップ「スポーツショップイシイ」（現株式会社オーエックスレーシング）に遡ります。創業者である石井重行氏は、1984年にオートバイの試乗中に不慮の事故に見舞われ、脊髄を損傷。以降、車椅子での生活を余儀なくされました。既存の車椅子を複数試す中で、その機能やデザインに満足できなかった石井氏は、1985年から個人的なプロジェクトとして、ハンドメイドでの車椅子の製作と改良に取り組み始めます。この取り組みが事業化へと発展する契機となったのは、1990年9月にドイツで開催された国際自転車オートバイ見本市（IFMA）を視察した際、石井氏が使用していた自作の車椅子が現地の記者から高く評価されたことでした。ただし、同社の公式ウェブサイトにおける会社沿革には、1989年より車椅子製造を開始し、1995年に車椅子製造部門が独立したとの記述があり、情報源によって若干の記述の違いが見られます。

オートバイ技術の応用

母体となったスポーツショップイシイは、オートバイの全日本ロードレース選手権への参戦や、チューニングパーツの製造・販売を手がけており、アルミニウム、チタン、カーボンといった軽量で高強度な素材の加工に関する豊富なノウハウを有していました。このオートバイ事業で培われた高度な技術と知見は、そのまま車椅子の設計と製造に応用されています。軽量でありながら堅牢なフレーム構造や、細部にわたる精密な加工技術は、同社製車椅子の大きな強みとなっています。

製品の革新性とユーザビリティ

オーエックスエンジニアリングの車椅子は、ユーザーの使いやすさを追求した独自の機構が特徴です。多くの一般モデルにおいて、シートの固定に通常のネジやリベットではなくマジックテープを採用しています。これにより、ユーザーそれぞれの体格や姿勢に合わせたシートの微調整が容易に行えるだけでなく、シート部分の丸洗いや交換も手軽にできるようになっています。また、後輪はホイール中央のボタンを押すだけで車軸ごと簡単に取り外せるクイックリリース構造を採用しており、これは多くの自走式モデルで標準装備されています。この機構により、車椅子の持ち運びや収納、メンテナンスが格段に便利になっています。

スポーツ分野での貢献

同社は、創業初期からスポーツ用車椅子の開発にも積極的に取り組んできました。車椅子バスケットボール、車椅子テニス、車椅子陸上競技など、様々な競技において、国内外のトップアスリートたちに機材を提供しています。日本人初の夏冬パラリンピック金メダリストである土田和歌子選手、車いすマラソンの第一人者である副島正純選手、車いすテニスの国枝慎吾選手、車いすバスケットボール初のプロ契約選手である安直樹選手など、多くの著名な選手が同社の車椅子を使用して世界の舞台で活躍しています。競技用車椅子は、当初は社内の競技用車椅子製作部門で製造されていましたが、2003年からは新たに設立されたグループ会社の株式会社REVが製造を担っています。REVでは、競技用だけでなく、日常生活用を含むより高度なカスタムフルオーダーメイドの車椅子も製作しており、個々のユーザーの細かなニーズに応えています。

その他の事業とメディアでの露出

車椅子事業に加え、同社は自転車（グループ会社のOX Bikesが製造）、犬用車椅子、ハンドサイクルなどの製造・販売も手がけており、車椅子レンタルサービスも提供しています。また、テレビドラマ『ビューティフルライフ』で主人公が愛用したことで広く認知されたほか、漫画『カオスだもんね!』では開発経緯や製品へのこだわりが紹介されるなど、メディアでも度々取り上げられています。

組織の変遷

2012年12月31日には、創業者である石井重行氏が急逝されました。これに伴い、息子の石井勝之氏が代表取締役社長に就任し、現在に至ります。創業者の情熱と技術を受け継ぎながら、オーエックスエンジニアリングは日本の車椅子産業において、独創性と革新性を追求し続けています。

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