オーク (トールキン)

オーク（Orc）

オークは、J・R.R.トールキンの作品世界、中つ国に登場する人型生物です。主に悪の勢力に仕える兵士として描かれ、その起源や生態、文化など、様々な側面から物語に深みを与えています。

概要

オークは、トールキン作品におけるゴブリンの別名であり、中つ国の様々な言語で異なる名称を持ちます。中でも「ウルク」は、オークの中でも特に大型で戦闘に特化した種族を指し、人間との交配種であるウルク＝ハイも存在します。映画版では、ウルクが大型種の呼称として用いられました。

オークは共通語である西方語を理解し、異なる部族間でのコミュニケーションに用います。また、狼に騎乗する「狼乗り」も存在し、騎狼隊として恐れられています。

オークの祖先はエルフであるとされ、モルゴスによって堕落させられ、創り出された種族であるという説が有力です。物語には女性のオークは登場しませんが、オークにも女性が存在し、繁殖を行うと考えられています。

ホビットのゴクリや大蜘蛛がオークを捕食する描写もあり、オークの肉が食料となる場合もあります。

語源

初期の作品では「orc」という単語は限定的に使用され、主に「goblin」という言葉が用いられていました。しかし、『指輪物語』以降は「orc」が多用されるようになります。

オークの剣である「オルクリスト」はエルフ語で名付けられ、「ゴブリンを裂くもの」という意味を持ちます。

起源

トールキンは「オーク」という語を古英語の「orc（悪魔）」から借用しましたが、これはあくまで発音上の理由によるものです。また、ジョージ・マクドナルドの作品『お姫さまとゴブリンの物語』から多大な影響を受けたと語っています。

トールキンは、自身が用いる「Orc」と、イルカ目の海獣を意味する「Orc」とは関連性がないと述べています。

古英語語源

古英語の「orc」は、英雄詩『ベーオウルフ』や古英語語彙集にも用例があります。

『ベーオウルフ』では、怪物グレンデルの血統に「オーク＝ネ」という種族がいることが記述されています。

スペル

トールキンは『指輪物語』以降、「ork」という綴りを正表記として用いるようになりました。しかし、『指輪物語』の表記は変更されず、『シルマリルの物語』でも編者の意向により「ork」の採用は見送られました。

架空言語名

トールキンの世界には様々な言語が存在し、オークも西方語（共通語）を用いてコミュニケーションを取ります。

「オーク」という言葉は、西方語の名称であり、ローハン語でも同様の語形が用いられます。

エルフ語では、シンダール語で「orch」、クウェンヤ語で「urkō」と呼ばれます。暗黒語では「ウルク」がオークを意味します。

創造神話

オークの起源には、エルフが堕落したという説と、野生化したエルフが進化したという説の2つがあります。モルゴスがエルフを捕らえ、堕落させてオークを作り出したという説が有力です。

亜種・階級

オークには、大型の戦士階級であるウルク＝ハイと、小型の階級であるスナガが存在します。ウルク＝ハイはサウロンによって創造された強化種であり、スナガは奴隷として扱われることもあります。

その他、追跡や斥候を行うスナッフラーや、大オークと呼ばれる強力な亜種も存在します。

ウルク＝ハイは、通常オークとは異なり、日光に耐性を持つという特徴があります。

細かい描写

ウルクは、スナガよりも体格が大きく、足が真っ直ぐで、普通のオークよりも優越感を持っています。また、皮膚の色が黒く、吊り目であるという描写もあります。

狼乗り

狼に乗る騎狼隊は、オークや人間の裏切り者で構成され、敵軍に加わります。ワーグと呼ばれる魔狼がオークの略奪を援護し、オークは狼に乗って戦闘を行います。

生態

オークは、エルフが堕落または進化した存在であり、苦痛や憎悪の影響を受けて醜い姿になったとされています。日光を嫌い、知能は高いものの、下劣な生物として描かれています。破壊を好み、繁殖力が高いという特徴もあります。

オークの女性や子供は作中に登場しませんが、存在すると考えられています。

習性

オークは、本来エルフや人間と同等の知識や進歩を持つ可能性がありますが、憎悪や嫉妬、絶望に苛まれるため、建設的な連携を取りにくいとされています。残虐な行動も多く、エルロンドの妻がオークに襲われ、拷問されたという逸話もあります。

オークは馬や子馬、ロバなど何でも食べるとされますが、食事にはこだわりがあるらしく、地底湖に魚を取りに行かせることもあったようです。

オーク女や子供

オークの女性や子供は作中に登場しませんが、トールキンの著作には「オークはイルーヴァタールの子らと同じように繁殖する」とあり、オーク女性の存在が示唆されています。

オークの肉

オークの肉の味は、人によって評価が異なります。ゴクリはゴブリンの肉を好んで食べましたが、シェロブはオークの肉を「不味い」と評しています。しかし、食料が不足している状況下では、オークの肉も食料として利用されます。

文芸評論

トールキンのオークは、ジョージ・マクドナルドの作品『お姫さまとゴブリンの物語』の影響を受けています。また、ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』に登場するオーグワも影響を与えている可能性があります。

北欧由来説

ゲームライターの健部伸明は、北欧神話のスヴァルトアールヴ（黒エルフ）がオークのモデルであるという仮説を立てています。スヴァルトアールヴは、手先が器用で、美しいもの以外なら何でも造り、鉱山に洞穴を掘る、性格が邪悪という特徴を持ちます。

実写映画版の描写

ピーター・ジャクソン監督による実写映画作品では、アゾグやボルグなど、大きなオークが登場します。これらのオークは、『ホビット』の段階では「オーク」と呼称されていましたが、プロポーションの描写などから『指輪物語』で「ウルク」とされた可能性が高いです。