オータコイド

オータコイドとは

オータコイド（Autacoid）とは、動物の体内で合成され、極めて微量でも特定の生理的あるいは薬理的作用を発揮する物質の総称です。これらは、特定の器官で産生され体液を通じて遠隔地の標的器官に作用するホルモンや、神経細胞間でシグナルを伝える神経伝達物質とは異なる一群として位置づけられています。

その名称は「自己の薬」あるいは「局所の薬」といった意味を持ち、産生された組織の近傍や、その産生細胞自身に作用する局所的な効果を発揮する傾向があります。このため、「局所ホルモン」と呼ばれることもあります。

生体における役割と機能

オータコイドは、組織の損傷、炎症、アレルギー反応など、生体が外部からの刺激や内部の異常に遭遇した際に、その状況に対応するために動員されます。組織の修復、血管や平滑筋の運動調節、免疫細胞の活性化、痛みや炎症の媒介など、生体の恒常性維持や生体防御機構において極めて重要な役割を担っています。

しかし、その作用は強力なため、過剰な産生や不適切な作用は、新たな病態や症状を引き起こす原因ともなり得ます。例えば、アレルギー反応でのヒスタミン過剰放出や、炎症反応におけるプロスタグランジンなどの関与が挙げられます。

代表的なオータコイドの種類

オータコイドには化学構造や機能の異なる多様な物質が含まれます。主なものとして、以下のような物質が知られています。

アミン類:
ヒスタミン: 炎症、アレルギー、胃酸分泌などに関与。
セロトニン（5-HT）: 血管・腸管の収縮、気分などに関与し、神経伝達物質としても機能。
脂肪酸由来物質（エイコサノイドなど）:
プロスタグランジン (PG): 炎症、発熱、痛みの発生、血管・気管支の平滑筋作用、血小板凝集など多様な機能。
トロンボキサン、ロイコトリエン: 血小板機能、炎症、気管支収縮などに関与。
ペプチド類:
アンジオテンシン: 主に血管収縮作用を持ち、血圧調節に関与。
ブラジキニン: 血管拡張、疼痛、炎症に関与。
エンドセリン: 強力な血管収縮作用。
ガス状物質:
一酸化窒素 (NO): 血管平滑筋の弛緩、神経伝達、免疫応答などに関与。細胞内情報伝達物質としても働き、隣接細胞にも作用。

細胞から分泌され免疫応答や細胞増殖、分化などに作用するサイトカインをオータコイドに含める場合もあります。

ホルモン・神経伝達物質との関係性

オータコイド、ホルモン、神経伝達物質といった分類は、作用様式に基づくものであり、厳密な境界はありません。オータコイドは局所作用が主ですが、アンジオテンシンやブラジキニンのように、血流に乗って比較的遠隔の組織に作用するホルモン的な遠隔作用を持つものも存在します。また、セロトニンのように、神経伝達物質としても機能するものもあります。このように、作用の多様性や重なりが見られます。

産生・放出メカニズム

オータコイドは、種類によって産生・放出メカニズムが異なります。ヒスタミンやセロトニンなど一部は、細胞内にあらかじめ貯蔵されており、刺激に応じて細胞外へ迅速に放出されます。一方、エイコサノイドやNO、多くのペプチド性オータコイドは、刺激を受けた後に酵素反応によって新たに合成され、すぐに放出されます。

まとめ

オータコイドは、生体内で多様な機能に関わる局所作用性の生理活性物質群です。生体の恒常性維持や応答に不可欠であり、その作用は健康維持や病態の理解において重要な鍵となります。

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