オールズモビル・オーロラ

オールズモビル・オーロラ

オールズモビル・オーロラは、1995年モデルとしてデビューしたゼネラルモーターズ（GM）のフルサイズセダンです。GM傘下のオールズモビル部門が、従来の「親父のクルマ」というイメージを払拭し、ブランドに新たな活力を与える存在となるべく開発が進められました。キャデラック由来の堅牢なGプラットフォームをベースに、2ドアクーペのビュイック・リビエラと多くのコンポーネントを共有して設計されています。

1996年にオールズモビル・ナインティエイトが生産終了すると、オーロラは同ブランドの最高級車、すなわちフラッグシップモデルの地位を引き継ぎました。また、V型6気筒エンジン搭載モデルは、エイティエイトやLSSといった既存モデルの実質的な後継となりました。オーロラには、全モデルを通じて4速オートマチックトランスミッションのみが組み合わされています。

開発背景とコンセプト

1980年代、オールズモビルは販売台数の急激な落ち込み（1985年の100万台超から1992年には約39万台へ）に直面しており、ブランドの立て直しが急務でした。オーロラは、この状況を打破し、新鮮な風を吹き込む存在として大きな期待が寄せられました。デザイン面では、1960年代の名車、オールズモビル・トロネードからインスピレーションを得た曲線的なスタイリングを採用。また、既存のオールズモビルモデルからの脱却を強く印象づけるため、オーロラには意図的にオールズモビルのブランドバッジやロゴが使用されませんでした。その代わりに、1997年に導入される新しいオールズモビル「ロケット」エンブレムの布石となる、洗練された「A」の文字をモチーフにした専用エンブレムが装着されました。

オーロラの革新的なデザインは、その後のオールズモビル車にも影響を与えました。モデルチェンジしたエイティエイトやシルエット、カトラス、ブラバダといった既存ラインナップに加え、オーロラのデザインテイストを取り入れたイントリーグやアレーロといった新型車が登場し、ブランド全体でオーロラが牽引する新しいイメージを打ち出そうとしました。この時期には、オールズモビルブランド自体が「オーロラ」に改称されるのではないかという憶測まで流れました。

概念モデル：オールズモビル・チューブカー

オーロラのデザイン開発は1980年代末から早期に始まり、その概念は1989年に公開された技術コンセプトカー「オールズモビル・チューブカー」によって具体化されました。チューブカーは、オーロラの基本的なプロポーションに加え、車幅いっぱいに広がるテールライト、側面まで回り込んだリアウィンドウ、サッシュレス（窓枠なし）ドアなど、後の市販モデルに受け継がれる多くのデザイン要素を備えていました。ただし、チューブカーはピラーレスのハードトップボディに観音開きのドアを持つなど、市販モデルとは異なる実験的な特徴も兼ね備えていました。

第1世代 (1995年 - 1999年)

徹底した研究開発を経て、オーロラは1994年1月31日に生産が開始され、1995年モデルとして市場に投入されました。登場当時、オーロラはフルサイズセダンとして非常に豪華で先進的な装備を標準で備えていました。デュアルゾーンエアコン、本革シート、ウォルナット調のウッドパネル、2ポジションのメモリー機能を備えた電動フロントシートなどが標準装備され、さらに現在の燃費や走行データを表示するオンボードコンピューターも標準搭載されていました。

パワートレインには、キャデラック向けノーススターV8エンジンをベースにオールズモビル用に改良された4.0L L47 V8「オーロラエンジン」が標準搭載されました。このオーロラエンジンと組み合わせられる4速オートマチックトランスミッション「4T-80E」は、オーロラに搭載されるまでキャデラック専用ユニットでした。空気抵抗を示すCd値は0.32と、当時のセダンとしては優れた数値を達成しています。

初代オーロラは、その高い品質と走行性能で高く評価されました。洗練されたエンジンフィール、優れた組立精度、バランスの取れた快適な乗り心地、そして極めて強固な車体構造として各方面から高い評価を受けました。特にその頑丈さを示す逸話として、通常乗用車向けに設計された衝突テスト機器が、オーロラのモノコック構造の強固さゆえに破損してしまったという出来事があります。このため、より堅牢なトラック用フレーム試験機が用いられ、そのテストでもオーロラは米連邦基準を2度もクリアするほどの高い安全性を証明しました。

販売面では、発売初年度に45,000台を超える販売を記録し、好調なスタートを切りましたが、車両価格の高さが敬遠されたこともあり、1996年には販売台数が大きく落ち込みました。初代オーロラは、ビュイック・ルセイバー、パークアベニュー、リビエラ、オールズモビル・88、98、ポンティアック・ボンネビルといった他のGM大型車と共に、ミシガン州レイクオリオン工場で生産され、1999年6月25日に生産を終了しました。

第1世代 エンジン仕様 (1995-1999):
4.0L (244 cu in) L47 オーロラV8
最高出力: 250 hp (186 kW) @ 5600 rpm
最大トルク: 260 lb•ft (353 N•m) @ 4400 rpm
注: このエンジンを大幅に改造した高出力版（約650hp）が、インディ・レーシング・リーグやキャデラック・ノーススターLMPのレースカーに搭載されました。

第1世代 年次変更:
1996年モデル: 昼間点灯ライト（DRL）を装備。初期モデルで指摘されたリアウィンドウの歪み問題が解消されたと発表。スロットルボディ前方にMAFセンサーを追加。
1997年モデル: バックミラーに電子コンパスを内蔵。助手席側ドアミラーに、リバースギア連動で鏡面が下向きになる機能を搭載。オプションでBoseサウンドシステムと、独立して注文可能な12連装CDチェンジャーが設定。
1998年モデル: サスペンションとステアリングシステムに改良が施され、乗り心地と低速時の取り回し性が向上。テレマティクスシステム「OnStar」がオプション設定されました。
1999年モデル: 生産は通年行われましたが、次期モデルイヤーとなる2000年モデルは設定されませんでした。

第2世代 (2001年 - 2003年)

オールズモビルは当初、第2世代オーロラをV8エンジンのみを搭載する、より高級志向のモデルとして計画していました。これは、初代と同様に新しいビュイック・リビエラとプラットフォームを共用し、さらに「アンタレス」という名称で開発が進められていた4ドアセダン、エイティエイト後継車の開発余地を確保する意図もありました。しかし、ビュイックがリビエラの開発計画を中止したことで、オールズモビルは資金繰りに苦慮し、急遽アンタレスをオーロラとして市場に投入せざるを得なくなりました。

その結果、第2世代も初代と同じGボディプラットフォームを使用することになりました。エンジンは4.0LノーススターV8が引き続き搭載され、これも4T-80E変速機と組み合わされました。しかし、2004年半ばにオールズモビル部門自体の消滅が決定した影響もあり、オーロラの直接的な後継車は登場せず、姉妹車のポンティアック・ボンネビルにV8エンジンがオプション設定される形で役割の一部が引き継がれました。

第2世代オーロラには、V8に加えV6エンジンも設定されました。この3.5L V6「LX5」は、オーロラのDOHC V8から2気筒を削った設計であったことから「ショートスター」とも呼ばれました。V6モデルは2001年モデルと2002年モデルのみに設定され、2002年半ばには生産が終了しています。

第2世代オーロラは、現代的な豪華セダンとして十分な競争力を備えていましたが、市場の注目を大きく集めることはなく、販売実績も初代から大幅に改善しませんでした。その要因は複数指摘されていますが、最も大きな影響を与えたのは、2000年12月にGMが数年以内にオールズモビルブランドを廃止すると発表したことでした。これにより、将来性への不安から消費者の購入意欲が低下したと考えられます。デザインもユニークさを維持していましたが、他のオールズモビル車との共通性やGM他車との部品共用が進み、初代が持っていた既存モデルからの「隔離性」は薄れました。また、ボディサイズも初代より全長が約15cm短縮されています。デザイン評価も分かれ、『Automobile』誌が初代に比べて特段優雅ではないと評した一方、『Auto Channel review』はあらゆる面で改良されたと好意的に評価しました。

第2世代オーロラは1999年11月10日に生産が始まり、2000年2月に発売されました。V6モデルの最後の車両は2002年6月21日に、そして最終生産となるラスト500台は2003年3月28日に工場から出荷されました。この最終500台は、全て「ダークチェリー・メタリック」と呼ばれる特別なバーガンディ色に塗装され、専用デザインのクロームホイールと「Final 500」のバッジが装着されていました。レイクオリオン工場での第2世代オーロラの総生産台数は71,722台です（内訳：2001年 53,640台、2002年 10,865台、2003年 7,217台）。オーロラのコンセプトに比較的近い後継車としては、後に登場するビュイック・ルサーン（2006年-）やキャデラック・STSといったGMのラージセダンが挙げられます。

第2世代 エンジン仕様:
2001-2002: 3.5L (214 cu in) LX5 V6
最高出力: 215 hp (160 kW) @ 5600 rpm
最大トルク: 230 lb•ft (312 N•m) @ 4400 rpm
2001-2003: 4.0L (244 cu in) L47 V8
最高出力: 250 hp (186 kW) @ 5600 rpm
最大トルク: 260 lb•ft (353 N•m) @ 4400 rpm

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