オー・カナダ

オー・カナダ：多言語国家の象徴

「オー・カナダ」（英語: O Canada、フランス語: Ô Canada、イヌクティトゥット語: ᐆ ᑲᓇᑕ!）は、カナダの国歌です。1880年6月24日、ケベックの建国記念日の式典に向けて、愛国歌としてカリサ・ラヴァレー（ケベック州の作曲家）が作曲、アドルフ＝バジル・ルーチエ卿（ケベック州の判事）がフランス語で作詞し、式典で初めて歌われました。英語の訳詞は当初存在せず、1908年にロバート・スタンリー・ウィア（ケベック州の法律家）によって、現在の歌詞の元となるものが書かれました。

国歌制定の経緯

1968年、上下院特別合同委員会の勧告により、英語版の歌詞が若干変更されましたが、フランス語版の歌詞は変更されていません。当初、この曲はフランス系カナダ人を象徴するものでしたが、時を経て、「カナダ」という単語がカナダ連邦全体を意味するようになり、1980年7月1日、「カナダの日」の祝典において、正式に国歌として法制化されました。

また、カナダの総督、副総督に対する王室歌として、総督歌はカナダの王室歌である『国王陛下万歳』の冒頭6小節とオー・カナダの冒頭4小節、末尾4小節を利用して編曲されたものが使用されます。これらは総督、副総督が公式の場に登場する場合に演奏されます。

歌詞を巡る議論と変遷

英語詞に含まれる「True patriot love in all thy sons command（汝の息子全ての中に流れる真の愛国心）」という一節は、男性のみを指しているとして、以前から男女差別であるという意見がありました。

ウィアによって英語の歌詞が作られた当初（1908年）は、「sons」という単語は含まれておらず、「thou dost in us command（我ら〜）」という、やや古風で宗教的な言い回しが用いられていました。しかし、第一次世界大戦の影響からか、「thou dost in us command」が「in all thy sons command」に改められ、宗教的な意味合いが強くなったとされています。

2010年のバンクーバーオリンピックで国歌が頻繁に演奏された際、カナダが金メダルを獲得した14種目のうち6種目が女性選手であったことを受け、カルガリー大学のリズベス・ドナルドソン名誉教授が、スティーヴン・ハーパー首相宛に「女性たちが名誉ある表彰台で「in all thy sons command」と歌うのは目に余る」という内容のメールを送りました。首相もこれに同意し、国歌修正案を国会に提出しましたが、国民からの批判が殺到したため、すぐに撤回されました。

カルガリー大学の政治学教授トム・フラネガンは、この問題を取り上げることは、他の様々な問題を引き起こす可能性があると警告しました。「ひとたび国歌の論争を始めれば、無神論者は「God」の削除を主張し、平和主義者は「stand on guard」に異議を唱え、先住民は「native land」とは誰の土地だと主張し始めるだろう」と述べました。

一方、原詞であるフランス語版は性別に中立的な歌詞です。英語詞の該当箇所は、フランス語歌詞では「Ton front est ceint de fleurons glorieux!（み前は輝かしい花輪で覆われている）」であり、全く内容が異なります。最後のリフレイン部分も、英語版は「O Canada. We stand on guard for thee.（おお、カナダよ、我らは汝を守る）」と献身的な歌詞であるのに対し、フランス語歌詞は「Protégera non foyers et nos droits.（我らの住まいと権利を保護するであろう）」と祖国への願いが込められています。

2016年1月、モーリル・ベランジェ下院議員は、「息子たち（in all thy sons command）」を「私たち（in all of us command）」に改める法案を議員立法で提出しました。この法案は2016年6月に下院を通過し、2018年2月2日に上院で可決され、その場で新しい歌詞となった国歌が斉唱されました。

多様な言語での歌唱

NHL（ナショナルホッケーリーグ）の試合では、モントリオールでは2/3をフランス語で、1/3を英語で歌い、オタワでは最初の1/3を英語で、次の1/3をフランス語で、最後の1/3を英語で歌うなど、英語とフランス語を組み合わせて歌うこともあります。冒頭と最後をフランス語で、中間を英語で歌う公式歌詞も存在します。

一方で、メジャーリーグベースボールでは、トロント・ブルージェイズが現在唯一のカナダ球団ですが、同球団の本拠地であるオンタリオ州トロントを含め、リーグ加盟全球団の本拠地が英語圏にあることから、英語詞のみが歌われています。また、非公式ながら、主にヌナブト準州で用いられるイヌクティトゥット語の歌詞も存在します。

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