カイサーン派

カイサーン派とは

カイサーン派は、イスラム教の初期に存在したシーア派の一派です。その名前は、指導者ムフタールの通称「カイサーン」に由来します。ムフタールは、第4代カリフ・アリーの支援者アスバグ・ブン・ヌバータによって、「賢い」という意味のカイスと呼ばれたことが由来とされています。

カイサーン派の独自性

シーア派は、預言者ムハンマドの従弟であり第4代カリフであるアリーとその子孫のみが、イスラム共同体の指導者（イマーム）としてふさわしいと信じています。しかし、カイサーン派は、アリーの末子ムハンマド・イブン・ハナフィーヤを真正なイマームであるとみなしました。これは、他のシーア派（イマーム派やザイド派など）が、アリーとムハンマドの娘ファーティマの息子であるハサン、フサインとその子孫をイマームとして認めるのとは大きく異なる点です。

ムフタールの乱とカイサーン派国家

カイサーン派の初期の指導者ムフタールは、685年にムハンマド・イブン・ハナフィーヤをマフディー（救世主）であると宣言し、自らはその代理人（カリフ）として、クーファでウマイヤ朝に対する反乱（ムフタールの乱）を起こしました。ムフタールの勢力は一時的にイラク一帯を制圧し、カイサーン派国家を形成しましたが、687年にクーファを落とされ滅亡しました。

カイサーン派の分裂と衰退

ムフタールの死後、カイサーン派は分裂しました。ムハンマド・イブン・ハナフィーヤが700年に亡くなると、彼が死んだことを認めず、救世主として再臨するまで幽冥界に身を隠していると考えるグループと、ムハンマドの遺児を次代のイマームとして推戴するグループに分かれました。その後も、イマームを誰にするかの問題で分裂を繰り返し、8世紀には十二イマーム派などに吸収され、消滅しました。

アッバース革命への参加

カイサーン派の分裂と衰退の過程では、アッバース家のウマイヤ朝打倒の革命運動に積極的に参加し、アッバース朝のカリフがイマームであると主張するグループも現れました。

シーア派への影響

カイサーン派は、マフディーたるイマームが世界の終末に救世主として再臨するまで幽冥界に隠遁（ガイバ）しているという思想を初めて用いました。この思想は、十二イマーム派など他のシーア派に取り入れられ、その教義形成に大きな影響を与えました。

このように、カイサーン派は、シーア派の歴史において重要な役割を果たした一派であり、その思想は後のシーア派の教義に大きな影響を与えました。

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