カダス

クトゥルフ神話の秘境、カダス：神々が隠遁する地

カダス（Kadath）は、H・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話に登場する、神秘に満ちた架空の土地です。「凍てつく荒野のカダス」「未知なるカダス」「忘れ去られたカダス」など、様々な呼び名で呼ばれ、その神秘性を強調しています。一般的にはドリームランド（夢の次元）の一部とされていますが、レン高原という、位置が定まらない地域との関連性が物語に複雑さを加えています。

縞瑪瑙の城と神々の住処

『未知なるカダスを夢に求めて』では、カダスはレン高原の遥か北、山頂に巨大な縞瑪瑙の城がそびえ立つ土地として描写されています。この城は、地球本来の神々、あるいは大いなる存在と呼ばれる神々が、ナイアーラトテップの庇護の下、住まう場所とされています。城の規模は、主人公ランドルフ・カーターの目撃談によれば、冒涜的と表現されるほど巨大で、暗黒に覆われた不気味な場所として描かれています。

近隣にはインクアノクという街があり、神々の血を引く人間たちが暮らしている設定も存在します。これらの描写から、カダスは単なる地理的場所ではなく、神々と人間、そして異次元世界の交錯する特異点であることが伺えます。

神々の移住とナイアーラトテップの役割

『蕃神』では、神々は人間に姿を見られることを忌み嫌う存在として描かれており、次第に高い山々へと移り住むようになりました。そして、あらゆる場所が人間に侵食されると、最後の聖域としてカダスへと移住したとされています。

『未知なるカダスを夢に求めて』では、ナイアーラトテップが、魔王アザトースの意思を代行し、神々を地球から遠ざけてカダスに居住させる役割を担っていることが示唆されています。これは、アザトースや他の外宇宙の存在を地球に降ろすための策略の一環であると考えられます。

地球の神々自身も、人間から姿を隠す必要性を感じており、アザトースやナイアーラトテップとの勢力争いの中で、カダスは彼らの新たな拠点となっています。ノーデンスなどの神々は、ナイアーラトテップと対立する立場にあり、カダスを探求するカーターは、ノーデンスからの協力を期待していたという複雑な構図も存在します。しかし、ナイアーラトテップはカーターの計画を察知し、ノーデンスの保護下にあるクリーチャーを退け、強制的にカダスへと連れ去ります。

レン高原の謎

カダスの位置を示すレン高原もまた、その所在が曖昧な謎めいた場所です。ドリームランドの一部とされていますが、具体的な位置は未確定であり、カダスの神秘性をさらに深める要素となっています。

神々との遭遇と帰還

ラヴクラフト作品において、神々の姿を見た者は、正気を失ったり、生きたままカダスに留まることを強いられるというテーマが繰り返し登場します。これは、神々が人間との接触を極端に避けていることを示唆しています。『蕃神』の賢人バルザイや、『霧の高みの不思議な家』のトマス・オルニーは、神々を目撃したことで、不幸な結末を迎えています。

一方、カーターは、ナイアーラトテップに連れ去られたものの、神々の姿を見ずに帰還することができました。これは、ナイアーラトテップの意図や、神々との遭遇における条件などが複雑に絡み合っていることを示唆しています。カダスは、神々が人間から姿を隠す最後の聖域であり、その地への接近を試みるものは、ナイアーラトテップによって排除されるという厳しい現実が潜んでいる場所なのです。

参考文献

H.P.ラヴクラフト『蕃神』(1921年)
H.P.ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて』(1926年)
『クトゥルフ神話TRPG ラヴクラフトの幻夢境』エンターブレイン

関連項目

地球本来の神々
* レン高原

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