アザトース

アザトース：クトゥルフ神話の混沌とした根源

アザトースは、ホラー作家H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話における最重要にして、最も謎めいた存在です。しばしば「魔皇」「万物の王」「白痴の魔王」といった矛盾した形容詞で形容され、宇宙の根源的な力として描かれています。

ラヴクラフト作品におけるアザトース：混沌の源泉

アザトースの名前が初めて登場するのは、ラヴクラフトが1919年に記した備忘録です。この備忘録には、アザトースを主人公とした長編小説の構想も記されており、その片鱗は後に発表された作品に見られます。小説『未知なるカダスを夢に求めて』では、アザトースは漠然とした混沌として描写され、『闇に囁くもの』では、宇宙の核ともいえる存在として表現されています。『魔女の家の夢』では、主人公はアザトースの玉座へ至る恐るべき旅に出かけます。さらに『闇の跳梁者』では、「万物の王である盲目にして白痴の神」と形容されています。

ラヴクラフトはアザトースの子としてナイアーラトテップを、また他の旧支配者たちをアザトースの血族として位置付けていました。これらの旧支配者たちはアザトースの意思とは無関係に、時に協力、時に対立しながら、人間世界に恐怖をもたらします。

ラヴクラフトは、アザトース像の着想について、ロード・ダンセイニの『ペガーナの神々』に登場する創造神マアナ＝ユウド＝スウシャイから影響を受けた可能性も指摘されています。マアナ＝ユウド＝スウシャイは、創造後眠りについており、目覚めると世界が滅亡するとされる神です。この点はアザトースの「白痴の魔王」という側面と共通しています。

後続作家によるアザトース像：多様な解釈

ラヴクラフトの後継者であるオーガスト・ダーレスは、アザトースを旧支配者の首領として位置づけ、キリスト教におけるルシファーのような存在として描いています。ダーレスは『ネクロノミコン』を引用し、アザトースが旧神に反逆したことで知性を奪われ、混沌の支配者となったと解説しています。しかし、ダーレスはアザトースの復活をも予言しており、その混沌とした力は、宇宙を揺るがすほどの破壊力を持っています。

フランシス・レイニーやリン・カーターといったクトゥルフ神話研究者もアザトース像の構築に貢献しました。レイニーは、アザトースが邪悪さゆえに旧神によって追放された上位の存在であるとし、カーターはアザトースが旧神によって知性を奪われたという設定や、旧神がアザトースとウボ＝サスラの双子神を創造したという設定を追加しました。

ラムジー・キャンベルは、アザトースを崇拝する妖虫が登場する作品を発表しました。この妖虫は、アザトースへの生贄として他の種族を奴隷化します。また、キャンベルは『ネクロノミコン』に記されているアザトースの別名をNで始まるものとして設定しました。

ブライアン・ラムレイは、クトゥルフを旧支配者の首領として位置づける一方で、アザトースを宇宙生成の原動力とする独自の解釈を提示しています。ラムレイはアザトースから生まれた存在を「アザーティ」と呼び、その中でも特にアザータ、アザーテ、アザートゥの三柱を重要視しています。

ヘンリー・カットナーは、アザトースを宇宙そのものの創造主として描写しています。カットナーの作品では、宇宙はアザトースの夢であり、アザトースが目覚めれば宇宙は消滅するとされています。

アザトース：様々な表現

アザトースは、様々な作品で多様な姿で描かれています。クトゥルフ神話TRPGの挿絵では、沸き立つ触手と肉の塊として表現されることもあれば、宇宙の混沌そのものとして抽象的に描かれることもあります。これらの表現は、アザトースという存在の捉えが人によって異なり、その本質が謎に包まれていることを反映していると言えるでしょう。

結論

アザトースは、ラヴクラフトが生み出した最も重要な存在でありながらも、その正体は謎に包まれています。後続の作家によって様々な解釈が加えられ、クトゥルフ神話の核となる存在として、今もなお人々の想像力を掻き立てています。その混沌とした存在感は、クトゥルフ神話の根幹を成す不可欠な要素となっています。

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