地球本来の神々

クトゥルフ神話における地球本来の神々

クトゥルフ神話において「地球本来の神々」とは、地球に古来から存在するとされる神々を指す用語です。必ずしも明確な定義はなく、解釈が分かれる点も特徴の一つと言えるでしょう。狭義では、ラヴクラフトが創作したドリームランド（幻夢郷）に棲む「大いなるもの」を指しますが、既存の神話に登場する神々がクトゥルフ神話に取り込まれることも多いため、両者を明確に区別することは困難です。

ドリームランドの「大いなるもの」

ラヴクラフトが創造したドリームランドの「大いなるもの(Great Ones)」は、美しい人間の姿をした神々です。彼らはドリームランドの人々から信仰されており、人間と子をなすこともあり、その子孫は美しい容貌を受け継ぐとされています。かつては霊峰ハテグ＝クラ山の城に住んでいましたが、人間に姿を見られることを嫌い、秘境カダスの城へと移り住みました。

興味深いのは、彼らの力は人間世界の魔術師にも劣るほど弱い、いわば「脆弱な」神々であるという点です。そのため、ノーデンスやナイアーラトテップといった地球外から来た異形の神々（蕃神）の保護を受けているという設定になっています。ラヴクラフトの作品内では、彼らの具体的な数は不明瞭であり、個々の神々の詳細は明らかになっていません。

様々な解釈

クトゥルフ神話研究者によって、「地球本来の神々」の解釈は様々です。初期の研究者であるフランシス・レイニーは、旧神や旧支配者以外の神々としてヒュプノスを挙げましたが、具体的な記述は少なかったです。その後、リン・カーターは旧神、旧支配者、地球本来の神々という三分類を提唱し、多くの神々を地球本来の神々として位置づけました。しかし、カーター自身も設定を修正しており、解釈の変遷が見られます。

ゲイリー・メイヤーズは、地球本来の神々はカダスに住み、ダーレス神話のような圧倒的な力を持たず、邪神を眠らせているに過ぎないと解釈しています。また、栗本薫の『魔界水滸伝』のように、日本の妖怪を地球本来の神々と解釈するなど、創作における解釈の幅広さが伺えます。

既存神話からの取り込み

クトゥルフ神話では、ギリシャ神話、エジプト神話、ローマ神話など、既存の神話に登場する神々が取り入れられています。これらの神々は、必ずしも地球本来の神々と一律に分類されるわけではなく、旧神、旧支配者、あるいは邪神として扱われる場合もあります。

例えば、ノーデンスはローマ領時代のイギリスで信仰された神とされ、ギリシャ神話の海神を従える一方、旧神とされることもあります。ヒュプノスはギリシャ神話の眠りの神と同名ですが、クトゥルフ神話では恐ろしい神として描かれています。

エジプト神話の諸神も同様に、クトゥルフ神話に取り込まれています。ブバスティスやセベク、アヌビスなどは、邪神として描かれることが多く、セトは複数のクトゥルフ神話の諸神と関連付けられています。

他にも、メソポタミアの悪魔であるリリスや、ヤジディ教の天使でイスラム教徒によって悪魔とみなされるマリク・タウスなども、クトゥルフ神話に登場します。ローマ神話の主神ユーピテルは、クトゥルフやハスターを容易く撃退するなど、作品によって異なる描写が見られます。

クトゥルフ神話の創作神

ラヴクラフト自身も、多くの神々を創作しました。ゾ＝カラール、タマシュ、ロボンは『サルナスの滅亡』に登場する三神で、TRPGなどで具体的な設定が追加されました。コスは夢の神、ナス＝ホルタースはセレファイスの主神として、それぞれ異なる解釈がなされています。

イホウンデーは古代ハイパーボリアで信仰された女神で、ナイアーラトテップの妻とする解釈もあります。ヴォルヴァドスはムー大陸で崇拝された人類に友好的な神、イオドは宇宙から来た邪神として、それぞれ異なる位置づけで描かれています。ボクルグやニオス・コルガイも、カーターによって地球本来の神々に分類されたり、旧支配者とされたりなど、解釈に揺らぎが見られます。

まとめ

「地球本来の神々」は、クトゥルフ神話における曖昧で多様な概念です。ラヴクラフトの初期設定から、後続作家による解釈、既存神話の取り込みなど、様々な要素が複雑に絡み合い、その解釈は多岐に渡ります。この曖昧さが、クトゥルフ神話の奥深さ、そして魅力の一つと言えるでしょう。

もう一度検索