ノーデンス

ノーデンス：クトゥルフ神話の謎めいた神

概要

ノーデンスは、クトゥルフ神話という架空の神話体系に登場する神格です。既存の様々な神話の要素を融合しながらも、独自のキャラクターとして確立されています。しばしば「旧神」の一柱として分類されますが、その位置づけは時代や解釈によって変化しています。

ラヴクラフト作品におけるノーデンス

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品において、ノーデンスは「大いなる深淵の主」や「大帝」といった異名で呼ばれる存在として描かれています。初めて登場するのは『霧の高みの不思議な家』（1931年発表）で、マサチューセッツ州の港町キングスポートにある、異界に通じる館を訪れる場面が描かれています。白髪と灰色の髭を持つ老人の姿で、イルカが引く巨大な貝殻の戦車に乗る、海の神のような存在として描写されています。

『未知なるカダスを夢に求めて』（1943年発表）では、ドリームランドの地下深くに広がる「大いなる深淵」の支配者として登場します。この作品では、ドリームランドにおける神々の秘密を探ろうとする者たちを、夜鬼を使って妨害する一方で、人間に対しては比較的友好的な側面も見せています。特に、ラヴクラフトの個人的な楽しみとして書かれたとされる本作では、救世主のような役割を担っています。また、この作品でノーデンスとナイアーラトテップが対立関係にあることが示唆されています。

『霧の高みの不思議な家』では、「エルダー・ワン（古きもの）」との関連性が示唆されています。この曖昧な表現は、後にオーガスト・ダーレスによって旧神を表す言葉として用いられるようになります。

ノーデンスの起源

ノーデンスという名は、ローマ時代のイングランドで信仰されていた癒しの神、ノドンスを起源とする説が有力です。アーサー・マッケンによる『パンの大神』にも言及されており、ラヴクラフトはこの作品から着想を得たと考えられています。ただし、ラヴクラフトのノーデンスは、マッケンの作品に登場する神とは大きく異なっています。また、ケルト神話のヌアザと同一視される場合もあります。

ノーデンスの分類：旧神、外なる神、そしてその変遷

現在では、ノーデンスは多くの場合「旧神」に分類されますが、その分類は常に一定ではありませんでした。旧神という概念自体、オーガスト・ダーレスによってクトゥルフ神話の体系に導入されたものであり、当初は具体的な名前を持たない存在でした。フランシス・レイニーが1943年の『クトゥルー神話小辞典』でノーデンスを旧神として初めて名前を挙げたことが、その後の分類に大きな影響を与えました。

リン・カーターは、ノーデンスを地球本来の神々とする見解を示したこともありましたが、後に自説を改め、旧神に分類しています。TRPG『クトゥルフの呼び声』の初期バージョンでは、外なる神として分類されていた時期もありました。このように、ノーデンスの分類は、クトゥルフ神話の解釈や体系の変遷とともに変化を続けてきました。

ノーデンスの敵

ノーデンスの最大の敵として挙げられるのは、ナイアーラトテップです。旧神と旧支配者（もしくは外なる神）という対立構造が成立していますが、これはラヴクラフトのオリジナル作品においては必ずしも明確なものではありませんでした。レイニーとダーレスによる分類によって、この対立構造が後付けで成立する形となっています。

他に、ダニエル・ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』では、ヨグ＝ソトースがノーデンスのライバルとして挙げられています。しかし、ハームズ自身は旧神という概念に懐疑的な立場を取っているため、この設定も確定的なものではありません。


主な登場作品

ノーデンスは、ラヴクラフト作品以外にも、様々なクトゥルフ神話関連の作品に登場しています。主な作品を以下に挙げます。

アーサー・マッケン: 『パンの大神』
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト: 『霧の高みの不思議な家』、 『未知なるカダスを夢に求めて』
ゲーリー・メイヤーズ: 『妖蛆の館』（版によって内容が異なる）
フランシス・レイニー: 『クトゥルー神話小辞典』
リン・カーター: 『クトゥルー神話の神神』、 『カーター版ネクロノミコン』
TRPG: 『クトゥルフの呼び声』、 『ラヴクラフトの幻夢境』、 『コールオブクトゥルフd20』
* 関連作品: ダオイネ・ドムハイン（フォモールと神ヌアザの戦いを題材とした作品）


その他

ビデオゲームなど、他のメディアでもノーデンスの名は用いられています。例えば、ハドソンのゲーム『アースライト』では、最強クラスの宇宙戦艦にノーデンスの名が付けられています。


結論

ノーデンスは、その起源や分類、敵対者など、様々な解釈が存在する謎多き神格です。クトゥルフ神話の多様な解釈を理解する上で、ノーデンスは重要な存在と言えるでしょう。今後も、様々な作家やゲームクリエイターによって、ノーデンスの新たな側面が描かれていくことでしょう。

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