カッサーノの戦い

カッサーノの戦い：1705年、北イタリアを揺るがした激戦

カッサーノの戦いは、1705年8月16日に現在のイタリア・ロンバルディア州、ミラノ県のカッサーノ・ダッダで勃発した、スペイン継承戦争における重要な戦闘の一つです。この戦いでは、オーストリア軍とフランス軍が激突し、北イタリアの覇権を争いました。

戦いの背景：プリンツ・オイゲンのイタリア戦線への復帰

1704年、オーストリア軍の司令官プリンツ・オイゲンは、ドイツへ一時的に戦線を移し、ブレンハイムの戦いでイングランド軍のマールバラ公ジョン・チャーチルと共にフランス・バイエルン連合軍を打ち破り、ドイツの危機を救いました。しかし、イタリアでは、オーストリアと同盟関係にあったサヴォイア公ヴィットーリオ・アメデーオ2世が、ヴァンドーム公ルイ・ジョゼフ・ド・ブルボン率いるフランス軍に攻撃され、窮地に陥っていました。そのため、オイゲンは1705年4月にイタリアのロヴェレートに到着し、イタリア方面軍の指揮を引き継ぎました。彼は、それまでイタリア方面軍を指揮していたグイード・フォン・シュターレンベルクと交代し、サヴォイアをフランス軍の圧力から解放するために進軍を開始しました。

戦いの経過：アッダ川を挟んでの攻防

ヴァンドーム公は、オイゲンの進軍を阻止するためにロンバルディアに軍を布陣し、カッサーノ付近を流れるアッダ川には、弟のフィリップを配置しました。オイゲンはオーストリア軍を率いて西へ進軍し、フィリップの軍勢を一時的に圧倒しましたが、ヴァンドーム公の援軍の到着、オイゲン自身の負傷、そしてアッダ川が雨で増水し、多くの溺死者が出たため、渡河を断念せざるを得ませんでした。この結果、カッサーノの戦いはフランス軍の戦略的勝利に終わりました。

戦いの結果と影響

オーストリア軍の戦果は、オーリオ川東岸を確保し、サヴォイアに対するフランス軍の動きを鈍らせるにとどまりました。オイゲンは11月に軍事作戦を中止し、再びオーストリアへ戻り、戦略の練り直しを図りました。一方、フランス軍も大規模な行動を控えたため、戦役は一時中断されました。しかし、1706年1月にはニースがフランス軍に占領されたことで（ニース包囲戦）、再び戦役が再開されることとなりました。

カッサーノの戦いは、スペイン継承戦争における一局面であり、その後の戦局に大きな影響を与えました。プリンツ・オイゲンの戦略と、ヴァンドーム公の巧みな戦術がぶつかり合ったこの戦いは、当時のヨーロッパの政治情勢と軍事戦略を理解する上で重要な出来事と言えるでしょう。

参考文献
友清理士『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史』彩流社、2007年。
デレック・マッケイ著、瀬原義生訳『プリンツ・オイゲン・フォン・サヴォア-興隆期ハプスブルク帝国を支えた男-』文理閣、2010年。

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