カッダロールの海戦 (1758年)

カッダロールの海戦：七年戦争下のインドにおける英仏の激突

カッダロールの海戦は、七年戦争および第三次カーナティック戦争中の1758年 4月29日、インドのカッダロール沖で発生しました。この海戦は、ジョージ・ポコック率いるイギリス艦隊とアンヌ・アントワーヌ・ダシェが指揮するフランス艦隊の間で行われた最初の戦闘であり、両艦隊はその後もナーガパッティナムの海戦とポンディシェリーの海戦で対戦しましたが、いずれの戦いも決定的な決着には至りませんでした。

七年戦争開戦時のインド情勢

カッダロールは、イギリスがインドに持つ拠点マドラス（現在のチェンナイ）から南へ約180キロメートル、フランスの拠点ポンディシェリーから南へ約20キロメートルの地点に位置し、当時はフランスがコロマンデル海岸に持つ最も重要な交易所でした。1756年に正式に宣戦布告が行われた後、イギリスとフランスは大西洋、西インド諸島、カナダ、アフリカ沿岸などで争いを繰り広げました。両国の海軍はこれらの地域を主戦場としましたが、インド洋も例外ではありませんでした。イギリス東インド会社とフランス東インド会社が勢力拡大を競い合っていたのです。1757年3月、イギリスはシャンデルナゴルを占領し、フランス領インドがイギリスの侵攻に晒されるという状況が明確になりました。

フランス海軍は戦列艦の数でイギリス海軍に劣っていましたが、フランス政府はフランス東インド会社の資源を活用して増援を送ることを決定しました。9隻の艦船からなる混成艦隊が編成され、そのうち1隻は74門艦、残りの8隻は東インド会社の武装船でした。アンヌ・アントワーヌ・ダシェが艦隊の指揮官となり、ラリー伯爵が率いる4,000人の陸軍兵士も艦隊に乗り込みました。艦隊はラリー伯爵らをポンディシェリーに送り届け、ラリー伯爵はそこで全インドにおけるフランス軍の指揮を執る予定でした。艦隊は1757年5月2日にフランスを出港しましたが、大西洋での停泊中に疫病によって300人の兵士を失い、12月にイル＝ド＝フランスに寄港した後、1758年4月にようやくインド水域に到着しました。しかし、イギリス海軍のジョージ・ポコックはすでに待ち構えていました。

戦闘の経過

ダシェ艦隊は大砲470門を擁し、ポコック艦隊の410門を上回っていました。しかし、ポコック艦隊には戦列艦が7隻ありましたが、ダシェ艦隊には1隻しかありませんでした。戦列艦は東インド会社の船よりも多くの船員を抱えており、その練度も上回っていました。東インド会社の船は、南海の私掠船や敵対する東インド会社の船を攻撃するために武装していましたが、あくまで商船であり、たとえ優れた造りの船であっても、本物の戦列艦と比較すると脆弱で、砲撃速度も遅いものでした。さらに、ダシェ艦隊が輸送していた増援兵と補給物資は、砲手の移動を妨げる要因となっていました。ダシェ艦隊の艦船のうち6隻は50門以下であり、戦列艦というよりもフリゲート艦に近い存在でした。一方、ポコック艦隊は60門以上の艦船が5隻、50門以上の艦船が2隻であり、戦力的に優位でした。

4月29日の正午近く、両艦隊はオランダの交易拠点ナーガパッティナム近郊で遭遇し、単縦陣を形成して互いに接近しました。ポコックはダシェ艦隊の構成を熟知していたようで、唯一の戦列艦である74門艦のゾディアックに攻撃を集中しました。砲撃は15時頃にダシェ艦隊が開始しました。ポコックはゾディアックを破壊するという戦略を採用し、マスケット銃の射程に入るまで砲撃を控えました。16時になると激しい砲撃戦となり、ポコック艦隊はマストに大きな損傷を受け、ダシェ艦隊は兵士が集まっていた艦橋に砲弾が直撃し、多数の死傷者を出しました。ゾディアックは激しく抵抗し、ポコックの旗艦ヤーマスによる強襲を退けましたが、その間に他のフランス艦は戦線を離脱し始めました。ダシェは9隻の艦船のうち5隻に離脱を命じ、ゾディアックを含む残りの4隻に攻撃の続行を命じました。その後、残りの4隻も離脱しましたが、ポコックは追撃しました。

ここで、戦況を逆転させる出来事が起こりました。ポンディシェリー近郊を巡航していたフランス東インド会社の74門艦コント・ド・プロヴァンスと24門フリゲートのディリジャントが、戦闘の音を聞きつけて駆けつけ、ゾディアックに合流したのです。コント・ド・プロヴァンスの出現により形勢は逆転し、ダシェは撤退を中止して戦闘を再開しました。ポコックは両艦の連携に感心しつつも、自軍がすでにかなりの損害を被っていたため、撤退を命じました。ポコック艦隊はマドラスに戻って修理を行い、ダシェ艦隊はそのままポンディシェリーに向かいました。フランス東インド会社の艦船のうち、58門艦のビアネメは最も損傷が激しかったものの、なんとか沈没を免れましたが、危険なコロマンデル海岸の水域で座礁しました。

戦闘の結果とその後

損害が明らかになったのはイギリス側のみで、ポコック艦隊は戦死29名、負傷89名という結果でした。ダシェ艦隊は約600名の死傷者を出しました。いずれにせよ、激しい戦闘であったことは明らかであり、ダシェ艦隊の死傷者が多かったのは、増援兵を輸送していたためでした。ダシェ自身も重傷を負いました。

歴史家の多くは、この海戦を決着がつかなかったものとして軽視し、詳しく言及することは多くありません。これは、他の戦場で大規模な艦隊戦が行われていたため、歴史家の関心が薄れたためと考えられます。しかし、両提督の目的を考慮に入れた上でこの海戦を単独で見ると、フランス側の戦術的勝利であったと言えます。ポコックの目的は、フランス艦隊を阻止することであり、そのためにゾディアックに攻撃を集中させました。もしゾディアックが撃沈された場合、フランス艦隊全体が拿捕される可能性があり、そうなれば、新総督であるラリー伯爵が増援部隊とともに捕虜となる事態も予想されました。イギリス側の敗北とは言えませんが、フランス側の勝利と見なせるでしょう。ダシェは同日中にポンディシェリーに到着し、約3,200名の増援部隊を上陸させました（フランスで編成された時点では4,000名でしたが、疫病や戦闘で失われた人数を差し引くと約3,200名となります）。

この海戦は、すぐにインドの情勢に影響を与えました。イギリス嫌いで粗野な戦士であったラリー伯爵は、直ちに攻撃を開始し、上陸から1週間も経たない1758年5月4日にカッダロール港を占領しました。彼は6月にはポンディシェリーの南に位置するセント・デイヴィッド要塞を、10月にはアルコットを占領しました。その後の戦役はフランスにとって悲惨な結果に終わりますが、ダシェはポコックとの激戦を制し、自身の任務を見事に果たしたと言えるでしょう。2人の提督の戦いはこれで終わりではなく、同年8月3日にはナーガパッティナムの海戦、翌1759年9月10日にはポンディシェリーの海戦で再び相まみえることになります。

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