カナダバルサム

カナダバルサム

カナダバルサム（canada balsam）とは、主にアメリカ合衆国東部からカナダにかけて広く自生するバルサムモミ（Abies balsamea L.）などの樹木から採取される、天然由来の樹脂の一種です。松脂に似た特徴を持ち、ねばりけのある液体状です。外観は、ハチミツのような淡い黄色から、やや薄い茶色を帯びた透明な色合いをしています。かつては光学分野や生物のプレパラート作成において重要な役割を果たし、その特有の芳香はアロマテラピーや香料としても利用されています。

製造方法

カナダバルサムは、主にモミ類の樹皮から、有機溶媒による抽出や蒸留、あるいはこれらの方法を組み合わせて製造されます。この製造過程において、比較的沸点の低い成分は回収され、テレピン油として画材などに利用されることがあります。

化学成分

樹皮から抽出されるカナダバルサムは、その組成が多岐にわたりますが、主要な成分は以下の通りです。

樹脂酸：全体の約55%を占めます。これらは主にジテルペン系のカルボン酸であり、特にアビエチン酸やネオアビエチン酸が主成分として知られています。
揮発性モノテルペン：全体の約25%を構成します。主な物質としては、α-ピネン、β-ピネン、α-フェランドレンなどが挙げられます。
* その他：残りの約20%は、セスキテルペンやジテルペンで構成されています。このうち、アビエノールというジテルペンアルコール（ラブダン骨格を持つ）が主要な成分の一つです。また、ごく微量ながら、昆虫の幼若ホルモンに似た働きを持つセスキテルペン、ジュバビオンなども見つかっています。

主な用途と歴史

カナダバルサムは、約1.52という比較的高い屈折率を持っています。この値が光学ガラスの一種であるクラウンガラスの屈折率と非常に近いため、かつては光学ガラスやレンズを貼り合わせるための接着剤として非常に広く利用されていました。この光学分野での利用は100年以上の長い歴史を持っています。

しかし、いくつかの欠点があったため、現在ではそのほとんどの用途で合成樹脂製の接着剤に置き換わっています。欠点としては、時間とともに淡黄色に変色が進み、経年劣化によって透明性が失われること、湿気や温度変化に対する耐久性（耐候性）がやや低いことなどが挙げられます。また、使用時には加熱して柔らかくする必要があるため、光を当てるだけで固まる現在の合成樹脂と比較して作業に手間がかかる点も、代替が進んだ理由の一つです。特に複数のレンズを重ねて接着する作業は困難でした。

一方で、この加熱で柔らかくなる性質は、一度接着した面を剥がす必要がある場合には利点となります。

光学用途や生物のプレパラート封入用として市販されている製品の中には、カナダバルサムが有機溶剤やアルコールによく溶ける性質を持つことを利用し、キシレンなどで希釈して粘度を下げ、より扱いやすく調整されたものも見られます。

実際にカナダバルサムを用いて光学部品などを接合する際は、まず加熱して希釈溶媒を揮発させつつバルサムを軟らかい状態にします。次に、接合する面同士を圧着しながら内部の気泡を押し出し、そのまま冷却して固化させます。

前述の通り、特有の松脂に似た芳香を持つため、香料やアロマテラピーの分野でも利用されています。

関連項目

• - 天然樹脂
• - ロジン
• - 松脂
• - フィトンチッド

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