カノン (文芸)

カノン：フィクション世界を規定する基準

フィクションの世界観において、『カノン』とは、作品群を構成する要素の中で、その世界観を真に規定すると考えられる要素を指す用語です。小説、漫画、アニメ、映画など、様々な創作物で用いられ、作品世界における正史や正伝とほぼ同義です。しかし、カノンは単に出来事の羅列や年表を指すだけでなく、その世界観の根幹をなす要素、いわば『公式設定』を意味します。

宗教における正典と同様に、カノンという用語は、作品世界における真実性や権威性を示す指標として機能します。カノンに含まれる要素は、後続の作品においても尊重され、参照されることが一般的です。一方、カノンに含まれない要素は、外典として扱われ、世界観解釈においては考慮されない、もしくは優先順位が低くなる場合があります。

特に、作者が途中で変更される場合などには、原作者の作品がカノンとして位置づけられることがあります。例えば、シャーロック・ホームズのファンであるシャーロッキアンは、アーサー・コナン・ドイルの作品をカノンと呼び、それ以降の作品と区別しています。これは、コナン・ドイルの作品がシャーロック・ホームズの世界観を決定的に形成しているという認識に基づいています。また、彼らが自身の活動をキリスト教の神学研究に例えるユーモラスな側面も、カノンという概念が持つ重みと厳格さを示唆しています。

文芸におけるカノンの例

カノンという概念は、様々な作品群に見られます。

ウィリアム・シェイクスピアの作品: シェイクスピアの作品群は、正典と外典に分類されることがあります。正典はシェイクスピア自身によって書かれたと確認されている作品群を指し、外典は作者不明や真偽不明な作品群を指します。
源氏物語: 源氏物語とその派生作品、関連作品群を、カノンと外典に分類することもあります。源氏物語の世界観を正しく理解するためには、関連作品群を理解する必要があり、カノンと外典の区別が重要になります。
アーサー・コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズ作品: 既に述べた通り、シャーロッキアンはコナン・ドイルの作品をカノンとして尊重し、それ以外の作品を非正典として扱います。
J・R・R・トールキンによる『ホビットの冒険』と『指輪物語』: トールキンの中つ国を舞台にした作品群は、カノンと非カノンに分類されます。特に、『ホビットの冒険』と『指輪物語』は中つ国のカノンの核となる作品です。
赤毛のアン: L・M・モンゴメリによる『赤毛のアン』シリーズも、カノンと非カノンに分類される作品群が存在します。正典とされるアン・ブックスは、L・M・モンゴメリ自身が執筆した作品を指します。
スター・ウォーズ・シリーズ: 映画、アニメ、小説など、多様なメディアに展開するスター・ウォーズにも、カノンとレジェンズ（旧カノン）が存在します。ディズニーによる買収後、設定の整理が行われ、新たなカノンが定義されました。
* スタートレック: スタートレックシリーズも、映画、テレビシリーズ、小説など、多くの作品が存在し、それら全てがカノンとして扱われるわけではありません。

カノンと二次創作

カノンは、二次創作活動においても重要な意味を持ちます。二次創作は、カノンを尊重しつつ、新たな物語や解釈を生み出します。しかし、カノンを無視したり、歪曲したりする二次創作は、カノンの存在意義を揺るがす可能性も秘めています。

このように、カノンという概念は、作品世界における秩序と解釈の基準を示す重要な要素です。作品群を理解し、楽しむためには、その作品におけるカノンを理解することが不可欠です。

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