カビール人

カビール人とは

カビール人（カビル語: Izwawen, Leqbayel など）は、アルジェリア北部に位置する山岳地帯、カビーリアを故地とするベルベル人の先住民族です。首都アルジェの東約100km、アトラス山脈の周辺に主に居住しています。彼らはアルジェリア国内において最大のベルベル語話者集団であり、北アフリカ全体でも2番目に人口の多いベルベル系グループとして知られています。

歴史的に、アルジェリア内戦や中央政府による文化的な圧力、地域の経済的な停滞といった様々な要因が重なり、多くのカビール人が故郷を離れて海外へ移住しました。主な移住先はフランスですが、カナダ（特にケベック州）やアメリカ合衆国にもコミュニティが存在します。こうしたディアスポラは、現在もカビール人の社会や経済において重要な役割を果たしています。

彼らの言語はカビル・ベルベル語（タマジトの一派）です。長年にわたり、アルジェリアにおけるベルベル語の公的な承認を求めて運動が行われてきました。特に1980年の「ベルベルの春」は、この要求を強く主張する契機となりました。こうした運動を経て、2016年にはベルベル語（タマジト）が憲法においてアラビア語と並ぶ公用語として公式に認められています。

名称の由来

「カビール」(Iqbayliyen) という呼称は、外部からもたらされた名称であり、アラビア語で「部族」を意味する「qaba'il」が変化した言葉です。この語は、かつてイスラム帝国が北アフリカを征服した際に、「クルアーンに従った人々」を指すことから始まりました。現在でも、山岳地帯に限定されない様々な部族を指す言葉として用いられることがあります。

カビール人を特に指す場合に使われることが多いのが「Zwawa」(Izwawen) という呼称です。これは中世に出現し、大カビーリア山地の部族を指す言葉として、歴史家イブン・ハルドゥーンなども記述しています。フランスによるアルジェリア植民地化後、フランス人はしばしば「アラブ」と「カビール」を混同しましたが、後に「カビール人」という言葉は現代と同様に、カビーリアの特定の人々を指すようになりました。「Zwawa」という言葉は、現在でも特にアルジェリア西部などでカビール人を指す言葉として使われることがあります。

歴史と抵抗

カビール人は、カルタゴ、ローマ帝国、ヴァンダル王国、ビザンツ帝国、そしてオスマン帝国といった様々な勢力の支配下にあった北アフリカにおいて、比較的独立性を保ってきた数少ない集団の一つです。アラブ人による征服後も、彼らはその居住地域に留まり続けました。

オスマン帝国統治時代も、カビール人は外部からの影響をあまり受けず、主にクク王国やアイト・アッバス王国といった独自の王国を形成していました。しかし、この地域は1857年以降、激しい抵抗にもかかわらずフランスによる植民地化が進められました。ララ・ファトマ・ン・スメールのような指導者たちは、1871年のモクラニの反乱後も抵抗を続けましたが、最終的にフランスの支配下に置かれました。

フランス当局は、抵抗の激しい部族から多くの土地を没収し、これをピエ・ノワールと呼ばれる入植者たちに与えました。この時期には多くのカビール人が逮捕され、特にニューカレドニアへ強制移送されることもありました。フランスの植民地支配は、多くのカビール人が国内外へ移住するきっかけとなりました。

20世紀初頭には、フランスに移住したアルジェリア人労働者の中から、独立を求める最初の政党が組織されました。メッサリ・ハッジといった指導者たちは、1930年代にフランスとアルジェリアで支持を広げ、独立闘争の中心的な存在となりました。第二次世界大戦後、独立運動はさらに勢いを増しました。

1962年にアルジェリアが独立を達成した後も、カビーリアと中央政府の間には何度か緊張が生じました。特に1963年には、ウアリ・ブーメディエンに率いられた国民解放軍（ALN）が主導権を握る中で、ホシーン・アイット・アーメドの社会主義軍戦線（FFS）が政府の権威に異議を唱えました。ベン・ベラ大統領はカビーリアに軍隊を派遣して反乱を鎮圧しようとし、多くの犠牲者を出しました。アイット・アーメドは逮捕され死刑判決を受けましたが、後に恩赦されています。

また、カビール人はベルベル語の権利獲得運動の中心を担ってきました。1980年の「ベルベルの春」では、言語の公認を求める大規模なデモが数ヶ月にわたって行われました。1990年代には、学校でのアラビア語強制に反対する「スクールバッグのストライキ」や、歌手マトゥーブ・ルーネスの暗殺事件後の激しい抗議活動が発生しました。2001年4月の「ブラックスプリング」と呼ばれる出来事では、ジェンダルムによる若者殺害をきっかけに大規模な暴動が起こり、多くの犠牲者が出ましたが、これは政府からの一定の譲歩を引き出す結果にもつながりました。そして前述の通り、2016年にタマジトが公用語として認められました。

地理的特徴

カビーリア地域の地理は、カビール人の歴史において重要な役割を果たしました。ティジ・ウズー県やベジャイア県の険しい山岳地帯は、外部勢力の支配下から逃れた人々にとって隠れ家となり、彼らが独自の文化遺産を保存する上で大きな助けとなりました。この地域は、かつてヌミディアやクタマ、ハマディッド朝といった地元の王朝を支え、近代においてはアルジェリア・ナショナリズムや独立戦争の拠点ともなりました。歴史上、ローマ人、ビザンツ人、アラブ人、オスマン帝国など様々な征服者によって平野部や主要道路は支配されましたが、山岳部（「山地」を意味するタムルト・イドゥラルと呼ばれる）は常に抵抗の中心であり続けました。

今日、主要なカビール語話者の人口は、ティジ・ウズー、ベジャイア、ブイラの各県に集中しており、これらの地域ではカビール人が多数を占めています。また、ブメルデス、セティフ、ボルジ・ブ・アレリジ、ジジェルなどの県にもカビール人のコミュニティがあります。首都アルジェにも多くのカビール人が居住しており、その人口の半分以上を占めるとも言われています。

言語と宗教

カビール人が話すカビル語は、アフロ・アジア語族のベルベル語派に属します。多くのカビール人は、カビル語の他に、アルジェリア・アラビア語やフランス語、そして一部は英語も話すことができます。歴史的には古代ティフィナグ文字が使用されていましたが、19世紀初頭からのフランスの影響下で、カビールの知識人たちはラテン文字を使用し始め、これが現代のベルベル・ラテン・アルファベットの基礎となりました。アルジェリア独立後、一部の活動家はネオ・ティフィナグ文字の復活を試みましたが、現在もカビル語の文学作品の多くはラテン文字で書かれています。

宗教に関しては、カビール人の大多数はイスラム教スンニ派を信仰していますが、少数のキリスト教徒も存在します。カビーリア地方には多くのスーフィズムの道場（ザウイア）があり、特にラーマニーヤ派が影響力を持っています。カビル系でカトリック教徒となった人々は主にフランスに居住しており、フランス人との混血による場合が多いとされます。近年では、特に福音派の間でプロテスタントのコミュニティが著しい成長を見せています。

経済とディアスポラ

カビーリア地域の伝統的な経済は、果樹園（特にオリーブの栽培）や、タペストリー、陶器といった工芸産業を中心としていました。しかし、山や丘での伝統的な農耕に代わり、近年では地元の産業（繊維業や農産物加工）が発展しています。20世紀半ば以降、海外のディアスポラからの送金や投資が地域の産業発展に大きく貢献し、カビーリアはアルジェに次いで国内で2番目に重要な工業地域となっています。

歴史的および経済的な理由に加え、政治的な迫害から逃れるため、多くのカビール人が海外に移住しました。特にフランスへの移住者が多く、その数は現在100万人にも達すると推定されています。カナダやアメリカ合衆国にも重要なコミュニティがあります。また、モロッコのリフ地方にいる一部の部族（ムタルサなど）も、その起源をカビーリアに遡ることができると言われています。世界各地に広がるカビール人のディアスポラは、故郷との繋がりを保ちつつ、移住先の社会でも多岐にわたる分野で活躍しています。

カビール人は、スポーツ界（ジネディーヌ・ジダン、カリム・ベンゼマなど）、エンターテインメント（イザベル・アジャーニなど）、ビジネス、文学など、様々な分野で多くの著名人を輩出しています。

彼らの独自の文化、不屈の精神、そして歴史的な経験は、アルジェリアの多様性と複雑な歴史を理解する上で欠かせない要素となっています。

もう一度検索