カプリコーン協奏曲

アメリカの作曲家サミュエル・バーバー（1910-1981）による《カプリコーン協奏曲》（英語: Capricorn Concerto）作品21は、室内楽編成のために書かれた独創的な協奏曲作品です。第二次世界大戦中の1944年9月8日に作曲が完了し、そのわずか1ヶ月後の10月8日には、ニューヨークのセイデンバーグ小交響楽団によって世界初演が行われました。この時期、バーバーは兵役に就いていたものの、陸軍から特別に作曲活動のための休暇を与えられており、その恵まれた環境下でこの重要な作品を生み出しました。

作品に冠された「カプリコーン（Capricorn）」という名は、作曲家が1943年にニューヨーク州マウント・キスコ近郊に購入した自身の自宅に付けた愛称に由来しています。この家は、バーバーをはじめ、親友で作曲家ジャン・カルロ・メノッティ、そして詩人のロバート・ホランといった、当時のアメリカ音楽・芸術界で活躍していた才能ある友人たちが集まり、共同で生活し、創作活動を行った場所でした。作品の各楽章が、この「カプリコーン」の住人たち――バーバー自身、メノッティ、ホラン――をそれぞれ音楽的に描写しているかのような連想を抱かせるという見方もありますが、バーバー自身はこの作品を特定の主題や物語に沿った標題音楽として位置づけてはいません。あくまで「カプリコーン」は曲が生まれた場所、すなわち自宅への愛着を示す愛称として捉えるのが適切でしょう。

《カプリコーン協奏曲》の最も顕著な特徴の一つは、その形式的な側面にあります。この作品は、バロック時代に隆盛を極めたコンチェルト・グロッソ（合奏協奏曲）のスタイルを現代に蘇らせる形で構想されています。コンチェルト・グロッソは、少数の独奏楽器群（コンチェルティーノ）と、より大きな合奏体（リピエーノ）が互いに対比し、協奏する形式です。バーバーは、特にヨハン・ゼバスティアン・バッハの代表的なコンチェルト・グロッソである《ブランデンブルク協奏曲第2番》BWV 1047に着想を得ており、その影響は楽器編成に明確に反映されています。本作は、バッハの《ブランデンブルク協奏曲第2番》と全く同じく、フルート、オーボエ、トランペットの3つの楽器を独奏群とし、これを弦楽合奏が支えるという編成を採用しているのです。これは、過去の偉大な形式へのオマージュであると同時に、現代的な響きを追求するための巧みな選択と言えるでしょう。

バーバーは、この作品においても自身の確立された音楽語法を貫いています。それは、当時の現代音楽において主流となりつつあった無調や複雑な複調を用いることなく、明確な調性を基盤とするものです。しかし、彼の音楽は決して伝統的な調性に留まるものではありません。現代的な感覚に満ちたハーモニーとメロディーが、全体に鋭角的で力強い響きを与えています。その音色は、しばしば20世紀前半に活躍した作曲家、例えばセルゲイ・プロコフィエフやパウル・ヒンデミットの作品を聴く際に感じるような、力強く、時に乾いた、しかし非常に個性的な響きを連想させます。

また、本作のリズム的な特徴も注目に値します。楽章の中で頻繁に速度が変化したり、あるいは細かく分断されたリズムが現れたりするため、全体としてどこか神経質で、緊迫感のある印象を与えます。このようなリズムの扱い方は、バーバーの他の作品にも見られる特徴ではありますが、《カプリコーン協奏曲》においては、バロック的な形式感との対比の中で、より鮮烈な効果を生み出していると言えるでしょう。

これらの形式的、様式的特徴、特にバロック時代の構造を取り入れつつ、現代的な音楽語法と響きで再構築している点から、《カプリコーン協奏曲》は新古典主義音楽の傑出した一例として位置づけられます。20世紀前半の音楽界において、ストラヴィンスキーらが主導したこの潮流は、過去の音楽遺産を現代の視点から再解釈する試みでした。バーバーもまた、この潮流の影響下にあったことは否定できませんが、彼自身がストラヴィンスキーの音楽に対して、完全に無条件に賛同していたわけではなく、ある種の距離を置いて評価していたという側面も指摘されています。

作品は以下の3つの楽章によって構成されており、それぞれが異なる性格を持っています。全曲を通しても演奏時間は約14分と比較的コンパクトです。

第1楽章：Allegro ma non troppo
第2楽章：Allegretto
第3楽章：Allegro con brio*

この協奏曲は、バーバーの円熟期に差し掛かる頃の作品として、彼の才能と個性がよく表れており、現代においてもコンサートなどで演奏される機会が多い作品です。バロックの枠組みと現代的な感性が融合した、聴きごたえのある一曲と言えるでしょう。

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