カラクサケマン

カラクサケマン（Fumaria officinalis）

カラクサケマンは、ケシ科に属する一年生または二年生の草本です。ヨーロッパ原産で、日本では帰化植物として各地に分布しています。ムラサキケマンに似た花を咲かせますが、全体的に小型でよく分枝する点が特徴です。古くから薬草としても利用されてきました。

特徴

草姿: 全体的に柔らかく、白みを帯びた緑色をしています。草丈は20cmから35cm程度ですが、茎が伸びると90cmに達することもあります。
茎と葉: 茎は細く、稜があり、よく分枝します。葉は3回羽状複葉で、裂片は線形から披針形です。
花: 春から夏にかけて開花し、分枝した枝先に総状花序を形成します。花序には10個から30個ほどの小さな花をつけます。花は淡紅色から紅紫色で、長さは約8mm。
果実: 堅果で、球形に近い形をしています。緑色から藁色に変わり、表面はざらついています。

分布と生育環境

原産地のヨーロッパでは、荒れ地や耕作地によく見られます。日本では、明治時代末期に薬用植物として導入され、その後、北海道から四国にかけて帰化しました。都市部や農耕地の空き地などに生育しています。

類似種

カラクサケマン属には約50種が存在し、日本には以下の帰化種があります。

セイヨウエンゴサク（F. muralis）: カラクサケマンに似ていますが、花序あたりの花数が少なく、下向きの花弁の向きが異なります。
ニセカラクサケマン（F. capreolata）: カラクサケマンに似ていますが、小葉の切れ込みがより深いです。

これらの種は識別が難しく、混同されることがあります。また、日本には近縁のキケマン属（Corydalis）も存在しますが、果実に多数の種子があることや、花後に花柱が残ることなどで区別できます。

薬用としての利用と文化

ヨーロッパでは古くから薬草として利用されてきました。全草を乾燥させたものはフマリア草と呼ばれ、浄血剤や心拍を遅くする薬として用いられました。また、肝臓や胆嚢に対する刺激作用や、皮膚病の治療、利尿作用、緩下作用もあるとされています。ただし、使用法によっては毒性を示す可能性もあるため注意が必要です。

カラクサケマンから発見されたフマル酸は、疥癬の治療や食品の酸化防止剤として利用されています。

シェイクスピアの戯曲『リア王』には、リア王がかぶる雑草の冠の材料としてカラクサケマンが登場します。これは、手入れの行き届かない畑に生える雑草としてのイメージや、憂鬱症に効果があるとされたことから、狂乱と正気の間にある王の状態を象徴するものとして解釈されています。

参考文献

岡田稔 監修 著、和田浩志、寺林進、近藤健児 編『牧野和漢薬草大圖鑑』（新訂版）北隆館、2002年、140-141頁。
清水建美 編『日本の帰化植物』平凡社、2003年、78頁。
植村修二、勝山輝男、清水矩宏、水田光雄、森田弘彦、廣田伸七、池原直樹 編著『日本帰化植物写真図鑑 : Plant invader 500種』 2巻、全国農村教育協会、2010年、61-63頁。
アンドリュー・シェヴァリエ（Chevallier, Andrew） 著、難波恒雄 監訳 訳『世界薬草植物百科事典』誠文堂新光社、2000年。
* エリザベス・A・ダウンシー（Dauncey, Elizabeth A）、ソニー・ラーション（Larsson, Sonny）、舟山信次 日本語版監修 著、柴田穰治 訳『世界毒草百科図鑑』原書房、2018年、172-173頁。

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