カラーフィールド・ペインティング

カラーフィールド・ペインティングは、1950年代末から1960年代にかけてアメリカを中心に展開した抽象絵画の動向です。このスタイルは、具体的な形や線を描くのではなく、キャンバス全体を色数の少ない大きな色彩面で塗り込めることを特徴とします。鑑賞者は巨大なキャンバスに描かれた色彩の中に身体全体が包み込まれるような体験をします。

語源

この言葉は、元々、画家バーネット・ニューマンの作品を評して、批評家クレメント・グリーンバーグが1955年に使ったのが始まりです。ニューマンは巨大な絵画を通して観客を包み込む「場」を作り出し、超越的な感覚を与えたいと考えていました。グリーンバーグは、この言葉を色彩を使ってキャンバスに「場」を出現させようとした同時代の抽象画家たち、特に抽象表現主義の作家たちを説明するためにも使用しました。

色彩と場

グリーンバーグの言う「場」とは、部分の集合ではなく全体性や構造を重視するゲシュタルト心理学に基づいています。カラーフィールド・ペインティングの絵画平面では、色面に中心や焦点がなく、「地」と「図」（柄と背景）の区別もありません。絵画は平面的で厚みがなく、どこをとっても均質で、画面を越えて色面がどこまでも続いているように見える「オールオーバー」な画面構成が特徴です。このスタイルでは、絵画は単なる絵具を塗った平面として認識され、三次元的な奥行きや世界を錯覚させる陰影や透視法といった伝統的なヨーロッパ絵画の「イリュージョン」は否定されます。また、花や人物、幾何学的な図形といった中心となる要素も、「地」と「図」の区別を作り出してしまうため否定されています。色彩は、このようなイリュージョンや中心となる要素を描くための従属的なものではなく、平面自体を主役とする「場」を作るために使われています。

グリーンバーグは、これらの色彩や輪郭線の区別が曖昧な絵画作品を、1964年に自身が企画した展覧会名にちなんで「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」（「絵画的抽象以降の抽象」）と呼びました。これは、従来の絵画的な「地」に「図」が描かれている状態を克服し、平面的でイリュージョンを廃した抽象画を意味しています。しかし、最初にニューマンを評した際に使われた「カラーフィールド・ペインティング」という言葉が定着しました。

フォーマリズムとモダニズム

グリーンバーグは、同時代の絵画を評して使われた「アクション・ペインティング」という、美術家の行為を重視する見方よりも、美術家が作り出す絵画の形態を重視するフォーマリズムの立場を強調しました。彼は、内容よりも形態こそが美術を批判的に評価し、前進させる原動力であると考えていました。彼は、モダニズム美術は自己批判を繰り返しながら不要なものを削ぎ落とし、根本的な要素まで還元していく過程にあると捉えていました。そして、形態・輪郭・色彩が平面上で一つになる「形態的な純粋性」に至る道筋にあるものとして、カラーフィールド・ペインティングをモダニズムの前衛として評価しました。

他の時代の美術との関係

還元的になりすぎたカラーフィールド・ペインティングは、1960年代には一時的に下火となり、グリーンバーグ自身も大きな批判を受けました。しかし、作家たちはその後も試行錯誤を続け、後進の美術家たちに影響を与え、1990年代以降にはグリーンバーグも再評価される動きがあります。カラーフィールド・ペインティングの原点を、20世紀前半のシュプレマティスムに求める考え方もあります。また、観客を包み込み空間を変容させるという作品のアイデアは、1970年代以降のインスタレーションにも繋がっています。

代表的な画家

アンソニー・カロ
ヘレン・フランケンサーラー
モーリス・ルイス
ロバート・マザウェル
バーネット・ニューマン
ケネス・ノーランド
マーク・ロスコ
フランク・ステラ
中里斉
根岸芳郎

カラーフィールド・ペインティング