カリー・ボリー

カリー・ボリー

カリー・ボリー（ヒンディー語: खड़ी बोली）とは、かつて中世インドにおいて、主にその北西部に広がる地域で使用されていた言語です。この言語は、より広範なインド＝アーリア語派に属しており、その歴史的な変遷を理解する上で非常に重要な位置を占めています。

ヒンドゥスターニー語の源流

カリー・ボリーが持つ最大の歴史的意義の一つは、それが現在のヒンドゥスターニー語の直接的な祖語にあたるという点です。ヒンドゥスターニー語は、現代インドやパキスタンにおいて最も広く話されている言語の一つであり、その規範化された形態がヒンディー語とウルドゥー語という二つの主要な言語として確立されています。カリー・ボリーは、これら二つの言語の共通の基盤を形成した、まさに源流と呼ぶべき存在です。中世から近世にかけて、デリーとその周辺地域で発展したカリー・ボリーは、次第にその影響力を増し、広範な地域で通用する共通語としての性格を帯びていきました。

語彙と語法の変遷

カリー・ボリーの初期の段階における言語的特徴は、当時のインドで使用されていた他の多くのインド＝アーリア諸語と同様に、古代インドの古典語であるサンスクリットや、その後の俗語であるプラークリットからの強い継承性を持っていました。つまり、その基本的な語彙や文法構造は、これらの古い言語に深く根ざしていたのです。同時代の姉妹言語たちと比べても、このサンスクリット・プラークリット由来という点は共通する基盤であり、当時の北インドの言語景観の一端を示しています。

しかしながら、歴史の経過とともに、カリー・ボリーは外部からの影響を受けることになります。特に、イスラーム世界の文化や政治の影響が強まるにつれて、アラビア語やペルシア語からの語彙が大量に取り入れられるようになり、また一部の語法にも変化が生じました。このアラブ＝ペルシア式要素の導入は、カリー・ボリーをそれ以前の段階や、サンスクリット・プラークリットからの継承性を強く保ち続けた他の多くのインド系言語から区別する決定的な要因となりました。現代のヒンドゥスターニー語に見られる豊かな外来語彙や特定の表現形式は、この後代の変遷を経て形成されたものです。

インド言語史における位置づけ

カリー・ボリーは、サンスクリットやプラークリットといった古代・中世の言語と、ヒンドゥスターニー語や他の現代インド＝アーリア諸語との間に位置する重要な言語です。それは、インドの言語が時代と共にどのように変化し、多様な文化交流の中で新たな特徴を獲得していったかを示す好例と言えます。特に、デリーという政治・文化の中心地で発展したことが、その後のヒンドゥスターニー語が北インドのリンガ・フランカ（共通語）としての地位を確立する上で大きな役割を果たしました。

その本来の姿はサンスクリット・プラークリットに近く、姉妹言語と多くの特徴を共有していましたが、外来語の受容と語法の変化を経て、現代へと繋がる特有の言語体系を築き上げました。カリー・ボリーの研究は、インドの言語史、社会史、文化史を理解する上で不可欠なものです。

関連語

サンスクリット
プラークリット
* ヒンドゥスターニー語

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