十字軍国家

十字軍国家：地中海を舞台とした宗教戦争と国家建設

11世紀末から13世紀にかけて、ヨーロッパのキリスト教世界は、東方への宗教的熱意と領土拡大の野望を背景に、イスラム教徒支配下の地中海東部地域、特にシリア・パレスチナ沿岸への大規模な軍事遠征、いわゆる十字軍を行いました。これらの遠征の結果、西欧からの騎士や庶民によって、いくつかの封建制国家が建国されました。これらを総称して十字軍国家と呼びます。

レヴァントの十字軍国家

第1回十字軍の後、レヴァント（東地中海沿岸地域）には、いくつかの十字軍国家が成立しました。

エデッサ伯国 (1098-1144): 最初の十字軍国家として1098年に建国されましたが、1144年にイスラム勢力によって滅ぼされました。
アンティオキア公国 (1098-1268): アンティオキアを拠点とする強力な十字軍国家でしたが、モンゴル帝国の台頭やマムルーク朝による侵攻などを受け、徐々に勢力を衰えさせました。
エルサレム王国 (1100-1291): 十字軍国家の中で最も長く存続し、1291年のアッカ陥落まで存続しました。エルサレムを首都とし、周辺地域を支配下に置きましたが、イスラム勢力との抗争は絶えませんでした。
トリポリ伯国 (1102-1289): トリポリを拠点とした十字軍国家で、エルサレム王国と同盟関係を結びながら、イスラム勢力と戦いました。

これらの主要な4カ国以外にも、ガリラヤ公国、ヤッファ＝アスカロン伯国、トランスヨルダン領、シドン領などの小規模な国家や領邦が存在しました。また、アルメニア人のキリキア王国は、フランス系ルジニャン王朝の成立によって西欧の影響を強く受けるようになりました。

キプロス王国とその他の地中海諸国

第3回十字軍において、イングランド王リチャード1世がキプロス島を征服し、キプロス王国が成立しました。この島は、エルサレム王国の没落後も、リュジニャン朝によって統治され、1489年にヴェネツィア共和国に併合されるまで存続しました。

ギリシャにおける十字軍国家

第4回十字軍は、東ローマ帝国を征服するという、当初の目的を逸脱した展開を見せました。コンスタンティノープルが陥落し、ラテン帝国が建国されると、東ローマ帝国はニカイア帝国などいくつかの亡命政権に分裂しました。

ラテン帝国 (1204-1261): コンスタンティノープルを支配しましたが、ニカイア帝国の再興によって滅ぼされました。
テッサロニキ王国 (1204-1224): テッサロニキを拠点としましたが、比較的短期間でニカイア帝国に再征服されました。
アテネ公国 (1205-1458): カタルーニャ人傭兵団によって建国され、アテネを中心とした地域を支配しました。
アカイア公国 (1205-1432): ペロポネソス半島の大部分を支配しました。
* ナクソス公国 (1207-1566): ヴェネツィア人がエーゲ海に建設した国家で、多くの島々を支配しました。

これらの十字軍国家は、15世紀にオスマン帝国の台頭によって、ほとんどが征服されました。

聖ヨハネ[[騎士団]]とロードス騎士団領

聖ヨハネ[[騎士団]]（ホスピタル騎士団）は、1291年のアッカ陥落後、ロードス島を拠点としてロードス騎士団として活動を続けました。彼らは、地中海を舞台に強力な海軍力を持ち、イスラム勢力と戦いました。しかし、1522年にオスマン帝国のスレイマン1世によってロードス島が征服され、マルタ島に移転しました。

プロイセンにおけるドイツ[[騎士団]]

ドイツ[[騎士団]]は、バルト海沿岸のプロイセン地方において、異教徒であるプロイセン人やリトアニア人と戦い、ドイツ[[騎士団]]領を建設しました。この騎士団領は後に世俗化され、プロイセン公国となり、後のプロイセン王国の基礎となりました。

結論

十字軍国家は、宗教戦争と地政学的要因が複雑に絡み合った結果、生まれた歴史的な現象です。その興亡は、地中海世界の政治・文化・宗教状況に大きな影響を与え、ヨーロッパと中東の交流史において重要な役割を果たしました。 これらの国家は、西欧の封建制度と東地中海の多様な文化が混ざり合った独特の社会構造を持ち、その歴史は、中世ヨーロッパとイスラム世界、そしてビザンツ帝国の相互関係を理解する上で不可欠な要素となっています。

もう一度検索