概要
カワラ
ナデシコ(
学名:_Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) F.N.Williams_)は、
ナデシコ科
ナデシコ属に分類される多年草です。秋の七草の一つである
ナデシコ(撫子)は、一般的に本種を指します。別名として、
ナデシコ、ヤマト
ナデシコとも呼ばれます。
名称の由来
和名であるカワラ
ナデシコは、
河原に自生し、可憐な
花を咲かせる様子から、「撫でるように愛でたい」という思いを込めて「撫子(
ナデシコ)」と名付けられたことに由来します。日本で一般に
ナデシコと呼ばれている
植物は、このカワラ
ナデシコを指すことが多く、古くから「ヤマト
ナデシコ」という愛称でも親しまれてきました。
分布と生育環境
カワラ
ナデシコは、日本では
本州以西の
四国、
九州に広く分布しており、
沖縄諸島の一部にも自生しています。国外では、
朝鮮半島、
中国、
台湾にも分布しています。日当たりの良い
草原や
河原を好みますが、路傍、山地の斜面、海岸の砂浜など、様々な環境でも生育が確認されています。
しかし近年、自生地の開発、園芸用の採取、動物による食害、外来種の影響などにより、減少傾向にある地域も存在します。また、カワラ
ナデシコは、日当たりの良い開けた環境を好むため、環境遷移によって日陰になるなど、生育に適さない環境に変化すると、その生育は困難になります。かつては、人の手によって草刈りや枝打ちが行われ、
里山が維持されていましたが、近年の生活様式の変化により、そのような手入れが行われなくなったことも、カワラ
ナデシコの減少の一因と考えられます。
特徴
カワラ
ナデシコは、草丈30〜80cm程度の多年草で、根元から多数の
茎を叢生させます。
茎には節があり、基部は地面に伏せることもあります。
葉は対生し、線形から線状披針形で、長さは4〜7cm程度、先端は鋭く尖っています。
茎葉ともに白みを帯びた緑色をしており、
葉柄はありません。
花期は夏から秋にかけて(7〜10月頃)で、
茎の頂端に淡紅色の
花を数個咲かせます。
花の直径は4〜5cm程度で、
萼片は3〜4cm、
苞は3〜4対あります。
萼は細長い筒状で、基部には
苞が密着しています。
花弁は5枚で、基部は細く、先は糸状に細かく裂けています。雄しべは10本、雌しべは
花柱が2本あります。
花色は淡紅色が一般的ですが、白色のものや、淡紅色と白色が混ざった個体も見られます。また、栽培環境によっては、白色の
花が淡紅色に変化することもあります。
花が終わると、円柱状の果実となり、先端が4裂して黒色の種子が現れます。
栽培
カワラ
ナデシコは、多年草ですが、春に種を蒔いて発芽させた場合、冬を越して翌年に
花を咲かせます。挿し芽も容易で、充実した側芽を切り取って挿すことで増やすことができます。高温多湿を嫌うため、冷涼で日当たりと風通しの良い場所で栽培するのが適しています。
利用
カワラ
ナデシコは、秋の七草の一つとして古くから観賞用として親しまれてきました。
江戸時代には、変わり
花の栽培が盛んに行われ、
古典園芸植物としても知られていましたが、現在では、その多くが失われ、わずかに伊勢
ナデシコと呼ばれる一群が維持されています。また、他の
ナデシコ類の交配親としても利用されています。
薬用としては、開
花期の全草を瞿麦(くばく)、種子を乾燥させたものを瞿麦子(くばくし)と呼びます。利尿作用、通経作用、消炎作用があるとされ、民間では、種子を煎じて服用する方法が知られています。ただし、妊婦への服用は禁忌とされています。
近縁種
日本には、カワラ
ナデシコ以外にも、
ナデシコ属の
植物が生育しています。
エゾカワラ
ナデシコ(_D. superbus var. superbus_)は、カワラ
ナデシコの基
変種で、
北海道や
本州中部以北、ユーラシア大陸に分布しています。カワラ
ナデシコとの違いは、
萼片の長さが2〜3cmとやや短いこと、
苞が2対であることです。
タカネナデシコ(_D. superbus var. speciosus_)は、
北海道や
本州中部以北、ユーラシア大陸の高山帯に分布しており、
苞が2対であること、草丈が10~30cmと低いことが特徴です。
このように、カワラ
ナデシコは地域によって変異の大きい
植物です。
沖縄諸島に生育する集団は、別
変種とする説もあります。
保護上の位置づけ
カワラ
ナデシコは、以下の都道府県の
レッドデータブックに掲載されており、絶滅の危機に瀕している地域もあります。
岩手県:Cランク(存続基盤が脆弱な種)
埼玉県:絶滅危惧II類
鹿児島県:準絶滅危惧
沖縄県:絶滅危惧IA類
その他
1994年1月24日に発行された270円普通切手の意匠にも採用されました。
カワラ
ナデシコは、日本の自然を代表する美しい野草であり、その保全が求められています。