カンクリ

カンクリ族：中央アジア遊牧民の興亡

13世紀頃、中央アジアの広大なステップ地帯に栄えたカンクリ族。テュルク系遊牧民として知られる彼らは、ホラズム・シャー朝との深い関わりを持ち、モンゴル帝国の台頭によって歴史の表舞台から姿を消すまで、幾多の変遷を経験しました。本稿では、彼らの起源から、ホラズム朝における影響力、そしてモンゴル帝国による征服後の動向までを多角的に考察します。

起源と名称

カンクリ（Qangli）という名称は、『金史』や『元史』といった中国史料では「康里」と表記されます。その語源はテュルク語で「二輪の車」を意味するとされ、遊牧生活に根ざした彼らの文化を反映していると言えるでしょう。

『集史』部族篇には、カンクリ族はオグズ族の分派としてウイグル、キプチャク、カルルク、カラジ、アガチェリと共に記されています。彼らの起源については、キプチャク族の分派、もしくはエメク族からの分岐など諸説あります。弓月族や高車族との関連性も指摘されていますが、確証は得られていません。

ホラズム・シャー朝との深いつながり

カンクリ族はホラズム・シャー朝との緊密な関係を築き、大きな影響力を持っていました。その始まりは、バヤウト部族のジンクシ・カンの娘、テルケン・ハートゥーンがホラズム・シャー朝のスルターン、アラーウッディーン・テキシュと結婚したことに遡ります。

この婚姻を機に、多くのカンクリ族の首領がホラズム領内に定住し、スルターンに仕えるようになりました。テルケン・ハートゥーンの絶大な信頼と、カンクリ族兵士たちの武勇によって、カンクリ族の首領たちはホラズム朝において高い地位と権力を獲得しました。

テルケン・ハートゥーンは、次のスルターン、アラーウッディーン・ムハンマドの母でもありました。彼女は「フダーバンダ・ジャハーン（世界の君主）」という称号を有し、カンクリ族将軍たちからなる党派を率いるなど、スルターンに匹敵する権力者でした。スルターンとテルケン・ハートゥーンから相反する命令が出た場合、日付の新しい方を優先したり、スルターンが獲得した領土の大部分をテルケン・ハートゥーンに与えるなど、彼女の影響力は絶大でした。

居住地と著名な人物

カンクリ族の主な居住地は、ホラズム湖（アラル海）の北、カスピ海の北東、ウラル川の東に広がる乾燥平原でした。西隣にはキプチャク族が居住していました。

カンクリ族からは、ホラズム・シャー朝においてオトラルの長官を務めたイナルチュクや、モンゴル帝国、元朝で活躍したアイ・ベク、イェスデル、ミンガン、オロス、ブクム、そして文人・書家として名を馳せた康里巎々の様な著名な人物を輩出しました。康里巎々の父であるブクムやハマなども元において重要な役割を果たしました。

モンゴル帝国による征服とその後

モンゴル帝国の台頭は、カンクリ族の運命を大きく変えました。彼らはモンゴル軍に征服され、その歴史に幕を閉じます。しかし、モンゴル帝国、そしてその後継国家である元においても、カンクリ族出身者たちは高い地位に就き、政治や文化に貢献し続けました。

まとめ

カンクリ族は、中央アジアの歴史において重要な役割を果たした遊牧民でした。ホラズム・シャー朝との緊密な関係、そしてモンゴル帝国による征服という劇的な歴史的転換期を経験した彼らは、その強大な影響力と豊かな文化を残し、後世にその名を刻んでいます。今後の研究により、彼らの歴史はさらに明らかになるでしょう。

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