カンダラヌ

カンダラヌ：アッシリアの影に生きたバビロン王

カンダラヌ（在位：前648年-前627年）は、新アッシリア帝国によるバビロニア支配下で王位についた人物です。しかし、その出自や治世については謎が多く、歴史の表舞台に大きく登場することはありませんでした。アッシリア王アッシュルバニパルによって擁立された王であり、その権力は限定的であったと考えられています。

歴史的背景：アッシリアによるバビロニア支配

バビロニアは、ティグラト・ピレセル3世によってアッシリアに征服されて以来、常にその支配に抵抗していました。アッシリア王たちはバビロン王を兼任することが多かったものの、バビロニア人の反発は根強く、反乱が頻発していました。エサルハドン王は、バビロニアの懐柔策として、自身の死後、アッシリアとバビロニアをそれぞれ別の息子に継承させることを決定しました。これにより、長男のシャマシュ・シュム・ウキンがバビロン王に、次男のアッシュルバニパルがアッシリア王となりました。

しかし、この兄弟による分割統治は長くは続きませんでした。シャマシュ・シュム・ウキンは、アッシュルバニパルの高圧的な支配に不満を募らせ、前652年に反乱を起こします。しかし、この反乱は鎮圧され、シャマシュ・シュム・ウキンは自害。アッシュルバニパルは再びバビロニアを掌握することとなりました。

カンダラヌの治世：傀儡王としての役割

シャマシュ・シュム・ウキンの反乱後、アッシュルバニパルは再びバビロニアを直接統治するのではなく、新たな王を据えることを選択しました。それがカンダラヌです。彼の出自は不明であり、アッシュルバニパルの兄弟であるか、あるいは反乱鎮圧に協力したバビロニアの貴族であった可能性があります。一説には、彼の名前が身体的な欠陥を示唆するものであり、指導力に欠ける人物として意図的に選ばれたとも言われています。

カンダラヌの領土はシャマシュ・シュム・ウキン時代とほぼ同じでしたが、ニップル市はアッシリアの支配下に置かれました。彼の権限は極めて限定的であり、バビロンにおける治世の記録もほとんど残っていません。政治的・軍事的な実権はアッシリア王が握っており、カンダラヌは名目的な王としての役割を担っていたと考えられます。しかし、彼の治世下では、バビロニアにおける反アッシリアの動きは見られませんでした。

史料：少ない記録から見えるもの

カンダラヌの治世に関する史料は非常に限られています。年代記碑文に名前が記載されることもあれば、忘れ去られることもありました。後世の王名表には、キニーラダノスという名前で記載されていますが、その治世期間は22年とされています。しかし、同時代の経済文書からは、彼が治世21年の途中で亡くなったことが示唆されています。

カンダラヌの治世前後のバビロンの記録は不完全であり、彼の治世に関する王碑文は発見されていません。当時のアッシリアとバビロンの間の通信記録も、アッシリア側からのものがほとんどです。そのため、彼の治世の実態を詳細に知ることは困難です。しかし、天文観測記録などの学術的な文書は、歴史記録の歪みが少ないため、編年情報を得る上で貴重な史料となります。

アッシュルバニパルとの同一人物説：否定された学説

かつて、アッシュルバニパルとカンダラヌは同一人物であり、「カンダラヌ」はアッシュルバニパルがバビロン王として使用した名前であるという説がありました。しかし、この説は現在では否定されています。その理由として、アッシリア王がバビロンで別名を使用していた事例がないこと、アッシュルバニパルとカンダラヌの治世期間が異なっていること、アッシュルバニパルの碑文に「バビロンの王」という称号が使用されていないことなどが挙げられます。また、バビロニアの文書がアッシュルバニパルとカンダラヌを異なる人物として扱っていることも、この説を否定する根拠となっています。

カンダラヌは、アッシリアによるバビロニア支配の時代に、その狭間で生きた王でした。彼の治世は、アッシリアの傀儡政権としての側面が強く、歴史に大きな足跡を残すことはありませんでした。しかし、彼の存在は、当時のバビロニアを取り巻く複雑な政治状況を物語る上で、重要な意味を持っています。

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