ティグラト・ピレセル3世

ティグラト・ピレセル3世：新アッシリア帝国の再生者

紀元前8世紀、近東の覇権を握っていた新アッシリア帝国は衰退しつつありました。そんな中、紀元前745年から727年にかけて、ティグラト・ピレセル3世はアッシリア王として君臨し、帝国の再生を成し遂げます。彼は、軍事・政治システムの抜本的な改革を行い、アッシリア帝国をかつてない強大なものへと変貌させました。

出自と王位継承：謎に包まれた過去

ティグラト・ピレセル3世の出自は不明瞭です。王位継承に関する記録も曖昧で、王族の血筋であったか、それとも簒奪者であったのか、はっきりしていません。紀元前745年頃、アッシリアの首都カルフで何らかの混乱や反乱が発生し、その混乱の末にティグラト・ピレセル3世が王位に就いたと推測されています。彼自身は碑文の中で、アダド・ニラリ3世の子であると主張していますが、この主張の信憑性については疑問視する声もあります。様々な碑文や王名表の記述に矛盾が見られ、ティグラト・ピレセル3世が前代の王の記録を意図的に抹消した可能性も示唆されています。アッシリア学の権威であるダニエル・デーヴィッド・ラッケンビルも、彼の出自や王位継承については慎重な見解を示しています。

徹底的な改革：強大な帝国の基盤

ティグラト・ピレセル3世は王位につくと、まず高官の権限縮小に着手しました。それまでのアッシリアでは、高官の権力が肥大化し、王の命令を無視するような事態も発生していました。ティグラト・ピレセル3世は、宦官を地方総督に任命し、属州の規模を縮小することで高官の権力を抑制しました。属州の数を増やすことで、個々の総督の権力は相対的に弱まり、中央政府への脅威を減らすことに成功したのです。

次に、彼はアッシリア軍の改革に着手しました。従来の季節限定の遠征軍に代わって、征服地の人民を動員し、多様な兵種からなる常備軍を編成しました。これにより、アッシリア軍は一年を通して遠征が可能となり、規模も大幅に拡大しました。特に騎兵隊と戦車隊の強化は、北方遊牧民の脅威に対抗するためだったと推測されています。これらの改革によって、アッシリア帝国は強力な軍事力を手に入れたのです。

広大な領土：征服と支配

ティグラト・ピレセル3世は、改革によって強化された軍事力を使って、周辺諸国への征服に乗り出しました。彼の征服範囲は広大で、メソポタミア南部のバビロニアやカルデアから、西のアラムやイスラエル、北のウラルトゥやアルメニア、東のメディアやペルシアにまで及びました。彼は、征服した地域の住民を強制移住させることで、反乱の芽を摘み取りました。捕虜の処刑や死体の晒し者にするなどの残虐行為も行われたと記録されています。

彼の征服活動の中で特筆すべきは、ウラルトゥ王国への遠征です。ウラルトゥは当時、小アジアやイラン西部に大きな影響力を持っていましたが、ティグラト・ピレセル3世はウラルトゥ軍を破り、首都ヴァンを陥落させました。また、彼はイスラエル王国やダマスコなど、シリア地方の諸国も征服し、アッシリアの支配下に置きました。さらに、バビロニアに遠征してバビロン王を捕らえ、自身もバビロニア王を名乗って支配しました。

聖書における記述

ティグラト・ピレセル3世は、聖書において「プル」として登場します。列王記下や歴代誌上には、彼によるイスラエル王国やユダ王国への介入、貢納の要求、そして住民の強制移住などが記されています。聖書は、彼の残虐な側面だけでなく、近東政治に及ぼした大きな影響をも伝えています。

遺産：アッシリア帝国の最盛期

ティグラト・ピレセル3世の改革と征服は、アッシリア帝国の繁栄をもたらしました。彼の治世は、アッシリア帝国の最盛期と言われる時代の始まりとなりました。彼は、カルフに壮大な宮殿を建設し、そこに自身の業績を記録した碑文を残しました。彼の死後、息子のシャルマネセル5世が王位を継ぎ、アッシリア帝国の拡大はさらに続けられました。ティグラト・ピレセル3世は、新アッシリア帝国の礎を築き、世界史に名を残す偉大な支配者であったと言えるでしょう。

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