カンムリツクシガモ

カンムリツクシガモとは

カンムリツクシガモ（学名：Tadorna cristata）は、鳥類の一グループであるカモ目カモ科ツクシガモ属に分類される鳥です。最も顕著な特徴は、和名にも冠されるように、後頭部の羽毛が長く伸びて冠のような形状を形成している点です。この独特の冠羽は、他のツクシガモ属の鳥とは一線を画す識別点となっています。

形態

成鳥の全長は約60センチメートルほどで、比較的大きなカモの仲間と言えます。翼長はオスが約32センチメートル、メスが約31センチメートルと、わずかにオスの方が大きい傾向があります。後頭から首の後ろにかけての羽毛は、特徴的な冠羽として伸長しています。

頭頂部から後頭部にかけての羽色は、光の当たり方によって玉虫色に輝く暗緑色をしています。翼の一部を構成する雨覆羽は白色で、飛翔時に目立つ可能性があります。嘴と後肢は鮮やかな橙色をしています。

性的二形が見られ、オスとメスで体色のパターンが異なります。

オス: 頬から頸部、背中、そして下面にかけては主に灰色を呈します。下頸部から胸部にかけては暗緑色の羽衣が見られます。
メス: 額、頬、頸部は白色で、眼の周囲にはっきりとした白い斑紋が入るのが特徴です。胴体の羽色は灰褐色です。

分類と発見の経緯

本種は、最初にその存在が確認された際、その形態からアカツクシガモとヨシガモという別の種の交雑によって生まれた個体だと考えられていました。これは、1877年に現在のロシア極東部のウラジオストク周辺でメスの標本が採集された時点での見解です。

しかし、その後日本国内において、この鳥を描いたと思われる複数の精緻な写生図が見つかったこと、そして1913年から1914年にかけて現在の韓国群山（クンサン）周辺でオスの標本が採集されたことから、独立した新種として認められるべきだという意見が高まりました。これらの発見を受けて、カンムリツクシガモは正式に新種として記載され、学名が与えられるに至りました。現在、分類上の基準となる模式標本は、群山で採集されたオス標本の一つが指定されています。

生息地と記録

カンムリツクシガモの正確な生息地は、現在でも多くの謎に包まれています。主に中華人民共和国の北東部が本来の生息域ではないかと推測されていますが、確実な情報はありません。歴史的、あるいは断片的な記録が残されている地域としては、朝鮮半島、日本、そしてロシアのウスリー地方などが挙げられます。

驚くべきことに、学術的に確認されている本種の標本は、世界全体でわずか3点しか現存しません。これは、1877年にウラジオストクで採集され、現在デンマークのコペンハーゲン博物館に所蔵されているメス標本と、1913年から1914年にかけて群山周辺で採集され、日本の山階鳥類研究所に所蔵されているオス標本2点（うち1点が模式標本）のみです。

日本では、1822年に北海道の函館周辺で捕獲されたとみられる雌雄を描いた写生図が残されています。また、江戸時代中期の書物「観文禽譜（かんぶんきんぷ）」の記述から、享保年間以降に朝鮮半島から飼育用の鳥として日本に持ち込まれていた可能性も示唆されています。カンムリツクシガモを描いたとされる写生画は複数確認されており、「観文禽譜」や、松平頼孝家に所蔵されていた「鳥づくし」、黒田長礼家や松平直亮家が所蔵していた島津重豪による鳥類写生図などが知られています。1989年時点では、これまでに計20点の写生図が発表されています。

近年の目撃記録も極めて少ない状況です。1964年にウラジオストク周辺で3羽が観察されたという報告や、1971年に朝鮮半島での報告、1976年から1988年にかけて中華人民共和国で不確実ながら発見例があったとされています。

希少性

上記のように、学術的な標本が極めて少なく、近年の確実な目撃情報もほとんどないことから、カンムリツクシガモは極めて希少な鳥類であると考えられています。現在の生息数や状況についてはほとんど分かっていませんが、環境省のレッドリストにおいて絶滅のおそれがある種として評価されています。これらの状況から、本種は「幻の鳥」とも呼ばれることがあります。その生態や現在の状況を解明するための調査や発見が強く望まれています。

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