島津重豪

島津重豪：開明的藩主と権勢の象徴

島津重豪（しまづ しげひで）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した薩摩藩の第8代藩主であり、島津氏の第25代当主です。彼は、江戸幕府第11代将軍・徳川家斉の正室である広大院の父としても知られ、将軍の義父として「高輪下馬将軍」と称されるほどの権力を誇りました。しかし、その一方で、学問やヨーロッパ文化に対する強い関心を持ち、「蘭癖大名」や「学者大名」としても名を馳せました。

生涯

若年期と家督相続

延享2年（1745年）11月、重豪は分家の加治木島津家当主・島津久門（後の重年）の長男として誕生しました。幼名は善次郎といいました。生後すぐに母を亡くし、父が本家を継いで薩摩藩主になると、加治木島津家を継承します。その後、父の病弱や宗家の後継者問題から、重豪は本家に迎えられ、忠洪と改名。11歳で家督を継ぐことになりました。この時、加治木島津家は一時的に当主不在となり、重豪の従弟が家督を継ぐまで19年間空位となりました。

藩主として

宝暦8年（1758年）、元服した重豪は、将軍・徳川家重から一字を賜り、重豪と改名しました。当初は祖父や外祖父が藩政を代行しましたが、後に親政を開始し、藩政改革に乗り出しました。特に蘭学への関心は非常に強く、自ら長崎のオランダ商館に出向いたり、オランダ船に乗り込んだりもしています。

教育と文化の振興

重豪は、藩校の造士館を設立し、儒学者を招いて教育を奨励しました。武芸を学ぶための演武館や、天文研究のための明時館（天文館）も設立。これらの施設は武士だけでなく、庶民にも開放しました。また、医療技術の養成にも力を入れ、医学院を設立しました。教育と文化の発展に大きく貢献したのです。

隠居と権力維持

天明7年（1787年）、重豪は家督を長男の斉宣に譲って隠居しますが、依然として藩政の実権を握り続けました。文化6年（1809年）には、斉宣の緊縮財政政策に反対し、孫の斉興を擁立して後見人として政権を掌握。晩年には、下級武士出身の調所広郷を重用し、薩摩藩の財政改革に取り組みました。

晩年と最期

重豪は、曾孫の斉彬を非常に可愛がり、幼少期から共に暮らしました。斉彬の才能を高く評価し、シーボルトとの会見にも同席しています。シーボルトは重豪を「開明的で聡明な君主」と評しました。天保3年（1832年）に病に倒れ、翌年、89歳でその生涯を閉じました。

人物

学問への情熱

重豪は、学問に対する深い情熱を持ち、多くの学術施設を設立しました。また、学者たちに命じて、南西諸島の植物に関する本草書、中国語学書、農書、鳥名辞典などの編纂を行わせました。これらの学問的業績をまとめた伝記も作成させ、彼の向学心は曾孫の斉彬にも受け継がれました。

政略結婚

重豪は、それまでの島津家の方針を転換し、積極的に政略結婚を推進しました。将軍に娘を嫁がせ、有力大名に息子を養子として送り込み、江戸時代後期の政界に大きな影響力を持ちました。これにより、「高輪下馬将軍」と称されるほどの権勢を誇りました。

浪費家の一面

一方で、これらの政策実行には莫大な費用がかかりました。重豪は巨額の借金を抱え、家臣から「薩摩藩が天文学的な借金を抱える原因を作った殿様」と批判されることもありました。

超人的な活力

重豪は非常に頑健な人物で、80歳を超えても各地を奔走しました。侍医は「80歳だがなおも壮健」と記しており、読書や書道も眼鏡なしで行えたと伝えられています。また、大変な酒豪としても知られ、諸家では重豪がやってくるのを嫌がったとも言われています。

西洋人から見た重豪

オランダ商館長との交流を通じて、重豪は西洋の知識を積極的に吸収しました。彼と交流した西洋人は、重豪の知的好奇心と開明的な姿勢を高く評価しました。

官歴

• - 宝暦3年（1753年）：元服、兵庫久方と名乗る
• - 宝暦4年（1754年）：善次郎久方と改名、藩主世嗣となり、又三郎忠洪と改める
• - 宝暦5年（1755年）：藩主となる
• - 宝暦8年（1758年）：重豪と改名、従四位下、左近衛権少将兼薩摩守に叙任
• - 明和元年（1764年）：従四位上、左近衛権中将に転任
• - 天明7年（1787年）：隠居、上総介に遷任
• - 天保2年（1831年）：従三位に昇叙

系譜

重豪は、多くの妻妾をもち、多くの子女をもうけました。その中には、将軍の正室となった娘や、有力大名の養子となった息子たちがいます。

父

• - 島津重年

母

• - 島津都美

養妹

• - 梅

正室

• - 保姫

継室

• - 綾姫

側室

• - 慈光院
• - 春光院
• - 鈴木弥藤次の娘
• - 於房
• - 於富貴方
• - 於里江
• - 於曽美
• - 谷周右衛門政相の娘
• - 牧野千佐
• - 関金蔵有富の娘
• - 田上荘司則照の娘

子女

• - 長女：於悟
• - 次女：敬姫
• - 三女：広大院
• - 四女：於夏
• - 六女：牧姫
• - 長男：島津斉宣
• - 五女：於克
• - 三男：（名前未詳）
• - 次男：奥平昌高
• - 四男：亀五郎
• - 五男：感之介
• - 六男：島津忠厚
• - 八男：有馬一純
• - 九男：為次郎
• - 十男：乗之助
• - 十一男：逢之進
• - 十二男：豹治良
• - 十四男：南部信順
• - 八女：富姫
• - 九女：孝姫
• - 十三男：黒田斉溥
• - 十女：親姫
• - 十一女：淑姫
• - 十二女：桃令院
• - 七女：於礼
• - 七男：省之進

養子

• - 島津久徴
• - 雅姫
• - 立姫
• - 壽姫

まとめ

島津重豪は、薩摩藩の藩主として、また将軍の義父として、大きな権力を握りました。一方で、学問や文化を愛し、藩の教育や文化の振興に尽力しました。彼の生涯は、開明的な君主としての一面と、権勢を追求した政治家としての側面の両面を持っていたと言えるでしょう。

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