カール・レーヴィット

カール・レーヴィット：激動の時代を生きた哲学者

カール・レーヴィット (1897-1973) は、20世紀を代表するドイツの哲学者です。ミュンヘン生まれのドイツ系ユダヤ人として、彼は第一次世界大戦に従軍し、重傷を負いイタリア軍の捕虜となるなど、激動の時代を肌で感じながら生きてきました。

大戦後、レーヴィットはミュンヘン大学で哲学、生物学、人類学、社会学を学び始めます。マックス・ウェーバーの講義に参加したのちフライブルク大学に移り、エドムント・フッサール、マルティン・ハイデッガー、ハンス・シュペーマンといった当時の著名な学者たちから薫陶を受けました。

1923年、ミュンヘン大学で学位を取得。その後、マールブルク大学に移り、レオ・シュトラウス、ゲルハルト・クリューガー、ハンス・ゲオルク・ガダマーらと交流を深めます。ハイデッガーの指導の下、1928年には大学教員資格論文を提出。歴史哲学、実存哲学、哲学的人間学、精神分析学などを講義テーマとし、1934年にはプラハで開催された哲学会議にも参加しています。

しかし、ナチズムの台頭により、ユダヤ人であったレーヴィットは大学を追われることになります。ロックフェラー奨学生としてイタリアに留学し、ニーチェやブルクハルトに関する著作を執筆。1936年には、九鬼周造の尽力により東北帝国大学教授として来日し、約5年間、哲学とドイツ文学を担当しました。しかし、第二次世界大戦の勃発と日本の枢軸国加入に伴い、1941年にアメリカへ亡命。

アメリカではハートフォード大学とコネチカット大学で神学講座を受け持ち、パウル・ティリッヒやラインホルド・ニーバーらとも交流しました。この間、『ヘーゲルからニーチェへ』、『歴史における意味』などを執筆し、1949年にはニュースクール大学に招聘されています。

1952年、ガダマーの招きにより、ハイデルベルク大学教授としてドイツに帰国。1964年に引退するまで、同大学で教鞭を執り、『ハイデガー―乏しき時代の思索者』、『歴史的存在の批判』、『神、人間、世界』などの著作を発表しました。1973年、ハイデルベルクにて76歳で死去しました。

レーヴィットの哲学は、ハイデッガーの影響を受けながらも、独自の発展を遂げています。ストア的、懐疑的、不可知論的な立場から、キリスト教哲学の崩壊、ヘーゲルやマルクスの歴史哲学、実存主義といったテーマを主要な研究対象としました。古代ギリシアの宇宙論的な思想を踏まえながら、新しい形而上学と実存的な情熱を切り開いた彼の思想は、ニーチェ研究にも多大な影響を与えました。

また、ヘーゲル左派の思想史的意義を最初に指摘した人物としても知られ、東北大学での教授経験から、日本では生前から彼の思想が盛んに研究されてきました。歴史哲学、政治哲学など様々な視点からのアプローチがなされ、今日なお、レーヴィットの思想は、現代社会を考える上で貴重な示唆を与え続けています。彼の父ヴィルヘルム・レーヴィットは画家として知られており、芸術と哲学の両分野で活躍した一家に生まれたという背景も、レーヴィットの思想形成に影響を与えた可能性があります。

彼の著作は多数の日本語訳が出版されており、日本の読者にとってもアクセスしやすい哲学者と言えるでしょう。彼の生涯と業績は、20世紀の思想史を理解する上で欠かせないものです。

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