ガンツ (企業)

ガンツ：ハンガリーの産業を牽引した技術革新の歴史

ガンツ（Ganz vállalatok）は、1844年にガンツ・アーブラハームによって設立されたハンガリーを代表する機械・電気製品メーカーです。当初は鉄道関連の製造で知られていましたが、後に自動車、航空機エンジン、造船など多岐にわたる分野に進出しました。特に電気技術分野では、変圧器の画期的な改良や交流電気鉄道システムの開発など、世界に先駆けた技術革新を成し遂げました。

創業と初期の発展

スイス生まれのガンツ・アーブラハームは、1841年にペシュトに移り住み、1844年にブダで鉄工所としてガンツ社を設立しました。当初は車輪や車軸などの鉄道部品の製造を手がけ、1848年の革命時には銃や砲の生産にも携わりました。その後、ガンツは車輪の鋳造技術を開発し、1855年に特許を取得しました。この特許に基づく技術は、その後のガンツの発展の基礎となりました。

電気技術分野への進出

1880年代、ガンツは電気工学の分野にも進出し、アンドレアス・メフヴァルトの指揮の下、ジペルノウスキー・カーロイを筆頭とする技術者チームが電気部門を立ち上げました。このチームは、変圧器の改良に成功し、1885年にジペルノウスキー、デーリ・ミクシャ、ブラーティ・オットーの3人が共同で特許を取得しました。ガンツが開発した変圧器は、並列接続を可能にしただけでなく、鉄心を完全に閉じることで効率を大幅に向上させました。また、「transformer（変圧器）」という言葉自体もガンツによって考案されました。

ガンツの変圧器は世界中で販売され、同社は交流技術の創始者としての地位を確立しました。特にローマへの電力供給は、ガンツの技術による水力発電と高圧交流長距離送電の組み合わせで実現しました。

交流電気鉄道システムの開発

ガンツは、ニコラ・テスラのアイデアに着目し、カンドー・カールマーンに誘導電動機の開発を委ねました。その後、カンドーは交流誘導電動機による鉄道車両の電化に取り組み、1902年には、世界初の高圧電化された本線級鉄道であるヴァルテッリーナ線が開業しました。この路線では、ガンツ製の三相交流3,000V 15.6Hzのシステムが採用されました。また、カンドーは単相交流を利用した電気鉄道システムを開発し、その技術は、ハンガリー国鉄のV40型電気機関車「カンドー機関車」などの開発につながりました。

その他の分野への進出と拡大

1890年からは、フィウメ（現在のリエカ）の港で造船事業にも参入し、ダヌビウス造船所を設立しました。第一次世界大戦中には、軍需品の製造も行い、特にガンツ-フィアットは航空機用エンジン「Hiero」を製造しました。戦後は、機械工業や電気工業に注力し、橋梁や発電所の建設を続けました。1920年代にはディーゼルエンジンの開発も開始し、エンジンメーカーとしての地位も確立しました。

第二次世界大戦と戦後の再編

第二次世界大戦中にも軍需品を製造し、戦後には、ガンツ・イェンドラッシク式鉄道車両用ディーゼルエンジンが改良され、生産されました。1959年には、ガンツの機関車・貨車工場がマーバグ社と合併し、ガンツ-マーバグとなりました。しかし、1988年には再び独立し、マーバグの名前は消滅しました。現在、ガンツは複数の子会社を持つ持株会社として再編され、ガンツ・トランスエレクトロなど、各分野で事業を展開しています。ガンツ・トランスエレクトロ・インターナショナルは、ポーランドのバスメーカーソラリスとの提携で、バスの電装品の開発にも貢献しています。

日本との関わり

日本においては、1907年から1909年にかけて、ガンツ社が設計した蒸気動車が輸入され、使用されました。これらの車両は、機関と駆動装置部分をハンガリーから輸入し、車体は日本で製造されました。

ガンツの主要製品

ガンツは、その長い歴史の中で、多岐にわたる製品を開発・製造しました。その主なものを以下に示します。

航空機用エンジン：Hiero
艦艇：ヘルゴラント、セント・イシュトヴァーン
ディーゼル機関車（ガンツ時代）：ハンガリー国鉄M601型
ディーゼル機関車（ガンツ-マーバグ時代）：M31型、M32型、M38型、M41型、M46型、M40型、M42型、M44型、M63型
電気機関車（ガンツ時代）：V40型、V44型、V50型、V51型、V55型、V60型
電気機関車（ガンツ-マーバグ時代）：V41型、V42型、V43型、V45型、V46型、V63型
電車（ガンツ時代）：Cav 425型
電車（ガンツ-マーバグ時代）：BDVmot型、BVhmot型、BVmot型、ニュージーランド鉄道EM型
ディーゼルカー（ガンツ時代）：BCmot型、BCymot型、「Hargita」、アルゼンチン向け連接車
ディーゼルカー（ガンツ-マーバグ時代）：MDmot型、「D1系」、アルゼンチン国鉄向けユニット編成、ブラジル連邦鉄道向けユニット編成、中国国鉄向けユニット編成
地下鉄車両：földalatti villamos型
路面電車（ガンツ時代）：UV型
路面電車（ガンツ-マーバグ時代）：Csuklós型
路面電車（1988年以降のガンツ時代）：KCSV6型
路面電車（ガンツ-アンサルド/ガンツ-ハンスレット）：KCSV7型
トロリーバス：Ikarus/Ganz 280T, 312T, 412T, 415T, 435T, Solaris/Ganz Trollino

まとめ

ガンツは、19世紀から20世紀にかけて、ハンガリーの産業を牽引し、世界の技術革新に大きく貢献した企業です。鉄道車両、電気技術、エンジン製造など、幅広い分野で優れた製品を開発し、その技術は世界中で活用されました。ガンツの歴史は、ハンガリーの産業技術の発展史そのものであり、今日においてもその影響は色濃く残っています。

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