ガーター主席紋章官

ガーター主席紋章官

ガーター主席紋章官（Garter Principal King of Arms）は、イギリスにおける紋章官の最高位に位置する役職です。上級紋章官の筆頭として、イギリスの典礼や紋章に関する事務を統括し、国務大官である軍務伯（ノーフォーク公爵家が世襲）を補佐する役割を担います。2024年現在は、デイヴィッド・ホワイトがその任を務めています。

概要

ガーター主席紋章官の起源は、1415年にヘンリー5世がウィリアム・ブルージュを任命したことに始まります。ブルージュは、ガーター騎士団の紋章に関する事務を取り仕切る上級紋章官として、また紋章院を統べる立場として任命されました。ただし、紋章院の総裁は名目上、軍務伯が務めることとなっています。ブルージュの任命は、イギリス史上初の事例であり、彼に与えられた大きな権限は、周囲の紋章官たちの反感を買うほどでした。

ガーター主席紋章官は、ガーター勲章の叙任式において中心的な役割を果たします。黒杖官とともに新勲爵士をウィンザー城の「玉座の間」へ導き、新勲爵士は君主から勲章（大綬章、星章）を授与されます。また、新勲爵士が左足につけるガーターを渡すのも、ガーター主席紋章官の重要な職務です。

歴史

初代のウィリアム・ブルージュ以降、ガーター主席紋章官の地位は連綿と続いていますが、その歴史の中でいくつかの特筆すべき出来事がありました。例えば、1584年にサー・ギルバート・デシックが死去した際には、18か月ほどの空位期間が生じています。また、その後を継いだ息子のサー・ウィリアム・デシックは、職権を越えた紋章の承認行為や、従来認められていなかった主席紋章官の役割（紋章の不正使用者を訪問する権利）を不正に勅許状に追加するなど、違法行為を繰り返したため、最終的に解任されています。

清教徒革命期には、サー・エドワード・ウォーカーとサー・エドワード・ビッシュが共同で主席紋章官を務めた時期もありました。18世紀には、ジョン・アンスティス主席紋章官の在職中に、その息子であるジョンが共同就任し、1730年に正式な就任宣誓を行っています。

19世紀から20世紀初頭にかけては、サー・チャールズ・ヤングやサー・アルバート・ウッズなど、就任から死去まで終身で務める主席紋章官が続きました。特にアルバート・ウッズは、高齢にもかかわらず引退を拒み続けたため、彼の死後、主席紋章官やヘラルドの権限は一部縮小され、騎士団員栄典事務総局が新たに発足することとなりました。また、サー・アンソニー・ワグナーの時代（1961年-1978年）には、「70歳」を定年とする慣例がみられるようになり、ワグナー自身もこれに従って退官しました。

第一次世界大戦中には、ガーター主席紋章官はガーター勲章の剥奪にも関与しました。反独感情が高まる中、ジョージ5世はドイツ皇帝ヴィルヘルム2世のガーター勲章を剥奪できるかアルフレッド・スコット=ゲティ主席紋章官に確認しました。スコット=ゲティは、過去の事例を基に剥奪が可能であると回答し、これを受けてジョージ5世は1915年にヴィルヘルム2世を含むドイツ諸侯やオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世のバナーを撤去しました。

服飾

15世紀以降、ガーター主席紋章官は、正装として盾とロズンジであしらわれた冠（コロネット）を着用していました。18世紀以降には、外周を葉飾りであしらったデザインに変更され、現在に至っています。また、職杖とバッジ（副紋章）も与えられ、いずれにもガーター騎士団の紋章が描かれています。1906年には黒いバトンが下賜されることとなりましたが、1953年に現在の白いバトンへと変更されました。

俸給

ガーター主席紋章官の俸給は、国王から支払われる年収（49.07 英ポンド）に加え、大蔵省からの給与が支払われます。2018年時点での給与は35,000 英ポンドでした。2021年時点では、当時のガーター主席紋章官トマス・ウッドコックに支払われた総額は、651,515 英ポンドであり、別途公務に対する費用補填として74,579.02 英ポンドが支給されています。

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