キイレツチトリモチ

キイレツチトリモチ（喜入土鳥黐）



キイレツチトリモチは、ツチトリモチ科ツチトリモチ属に分類される寄生植物です。日本の一部地域に分布し、特異な生態と形態を持つことで知られています。

特徴



キイレツチトリモチは、小型の一年生または二年生の植物で、晩秋の10月下旬から11月中旬にかけて地上に姿を現します。その高さは3cmから11cm程度で、植物体全体が鮮やかな黄色をしています。花茎は細長く、10枚前後の鱗片葉を持ちます。これらの鱗片葉は白色から黄色をしており、光合成を行わないため葉緑素を持ちません。

地下茎は塊状で、表面に皮目がないのが特徴です。一つの根茎から3個から10個の花茎が伸びます。雌雄同株であり、一つの花穂に雄花と雌花が混在します。花穂は長卵形で、先端が尖っており、黄白色をしています。雌花は花穂の表面全体にびっしりと密集しており、その間に雄花がまばらに散らばっています。雄花には3枚の花びらがあり、外見上は塊の上に花が散らばったような独特の姿をしています。

キイレツチトリモチは葉緑素を持たないため、発芽した種子が寄主の根に付着して栄養を吸収しなければ成長できません。

生育環境と分布



キイレツチトリモチは、海岸付近の低地林内に生育し、トベラ、シャリンバイ、ネズミモチ、ハマヒサカキ、リュウキュウクロウメモドキなどの根に寄生します。日本国内では、四国（高知県）、九州（長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県）、大隅諸島、宇治群島、トカラ列島、奄美群島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島に分布しています。国外では、台湾にも分布しています。

かつては長崎県黒島が北限とされていましたが、2014年に高知県四万十町で自生が確認され、北限と東限が更新されました。南西諸島では、近縁種のリュウキュウツチトリモチが同様の環境で見られることがあり、キイレツチトリモチと混生している場合もあります。

発見と命名



キイレツチトリモチは、1910年（明治43年）に鹿児島県揖宿郡喜入町（現在の鹿児島市）の喜入小学校裏の丘陵で、小学校教諭によって発見されました。その後、植物学者の牧野富太郎によって記載され、その名が付けられました。

鹿児島市吉野町磯の生育地は、国の天然記念物に指定されています。

保護状況



キイレツチトリモチは、生育地の環境破壊や個体数の減少により、多くの地域で絶滅の危機に瀕しています。そのため、各地方自治体によってレッドデータブックに掲載され、保護対策が進められています。


鹿児島市吉野町磯の自生地は、1921年（大正10年）に「キイレツチトリモチ産地」として国の天然記念物に指定され、保護されています。

参考文献



  • - 沖縄県環境部自然保護課 編『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物（レッドデータおきなわ）第3版（菌類編・植物編）』2018年3月
  • - 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物-鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年。
  • - 財団法人鹿児島県環境技術協会編 『かごしまの天然記念物データブック』 南日本新聞社、1998年。
  • - 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第6巻 山地の植物』 新星図書出版、1979年。
  • - 寺田仁志「天然記念物「キイレツチトリモチ産地」指定地の植生について」『鹿児島県立博物館研究報告』第35巻、鹿児島県立博物館、2016年、73-89頁。
  • - 前田綾子、田邉由紀、稲垣典年「四国新産のキイレツチトリモチ(ツチトリモチ科)(新産地報告)」『分類』第15巻第2号、日本植物分類学会、2015年、185-189頁

外部リンク




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