キミ (カバネ)

君（きみ）と公（きみ）: ヤマト政権下の姓

古代ヤマト政権において用いられた姓の一つに「君（きみ）」と「公（きみ）」があります。これらは単なる称号ではなく、豪族の身分や血縁、そして政治的地位を反映する重要な指標でした。本稿では、「君」と「公」のそれぞれの特徴、歴史的変遷、そして氏姓制度における位置づけについて詳しく解説します。

君（きみ）: 中小豪族から地方豪族へ

「君」は、元々は豪族の首長を意味する尊称でした。その起源は古く、大和朝廷成立以前から存在したと考えられています。「君」の称号を受けた氏族は数多く、畿内とその周辺地域に集中していましたが、関東地方や九州地方にも広がっており、地域的な広がりを見せていました。例えば、上毛野君、下毛野君（関東）、筑紫君、筑紫火君（九州）などがその例として挙げられます。

これらの「君」の多くは中小規模の豪族でしたが、中には地方における有力な勢力を持つ豪族も含まれていました。8世紀以降になると、蝦夷や隼人の首長にも「君」の称号が与えられるようになり、その影響力は政治的にも軍事的に広がりを見せていたことがわかります。

公（きみ）: 皇親氏族の特権

一方、「公」の称号は、主に皇族やその末裔である皇親氏族に与えられていました。「息長公」、「多治比公」、「当麻公」などがその代表例です。これらは、応神天皇以降、あるいは継体天皇以降の皇室との血縁関係を主張する氏族に与えられていたと考えられます。「公」の称号を持つことは、皇室との血縁関係を示し、高い社会的地位と特権を意味しました。

大王と姓の確立

ヤマト政権の王が大王（おおきみ）と呼ばれるようになると、「君」と「公」は「姓」として体系化されました。これは、大王が豪族の上に立つ最高権力者として位置づけられたことを意味します。大王の権威は、氏姓制度を通して、社会全体に浸透していきました。

八色の姓と君・公の変遷

天武天皇13年（684年）に八色の姓が制定されると、「公」の氏族は最高位の真人（まひと）に列せられました。これは、「公」の称号を持つ氏族が朝廷において非常に高い地位と権力を有していたことを示しています。

同年、一部の「君」の氏族は「臣」氏族とともに「朝臣」に改姓されましたが、「君」の称号を維持した氏族も多く存在しました。天平宝字3年（759年）には、「君」と「公」の表記を統一する規定が設けられ、制度としての整備が進みました。

まとめ

「君」と「公」は、古代日本の社会構造と政治制度を理解する上で非常に重要な要素です。これらは単なる称号ではなく、豪族の身分、血縁、そして政治的地位を反映するものでした。それぞれの称号の持つ意味、歴史的変遷、そして氏姓制度における位置づけを理解することで、古代日本の複雑な社会構造の一端を垣間見ることができます。また、これらの称号の変遷は、ヤマト政権の政治的、社会的な発展過程を反映しており、歴史研究において重要な意味を持っています。

もう一度検索