キャスター (ロケットモータ)

キャスター（Castor）

キャスターは、サイオコール社（現在はATKランチ・システムズ・グループの一部門）が製造する、一連の固体燃料ロケットモータに付けられた名称です。これはロケットシステム全体の名前ではなく、個々のロケットの構成要素として採用された段や補助ブースターモーターを指します。このシリーズのルーツは、アメリカ陸軍のためにジェット推進研究所（JPL）が開発した地対地ミサイル、MGM-29サージェントにあります。その技術を基に、アメリカ航空宇宙局（NASA）が小型人工衛星打ち上げロケット「スカウト」の第2段として開発したキャスターIが、シリーズの出発点となりました。スカウトロケットの各段には恒星の名前が与えられており、この命名規則に従い、キャスターはふたご座のアルファ星「カストル」にちなんで名付けられました。日本でも、宇宙開発事業団（NASDA）系のNシリーズやH-Iロケットにおいて、固体ロケットブースターとして採用された実績があります。

キャスターI

シリーズの最初のモデルであるキャスターIは、1960年9月2日に打ち上げられたスカウトXの第2段として初飛行しました。全長はおよそ5.92メートル、直径は0.79メートル、燃焼時間は27秒という仕様でした。スカウトの第2段としての役割に加え、初期のデルタロケット（デルタD型やそれに続くデルタJ型まで）では、第1段を補強するストラップ・オン・ブースター（SOB）としても活用されました。特に、デルタD型は1964年に初の静止衛星であるシンコム3号の打ち上げに用いられています。キャスターIは合計141回の飛行記録を持ち、そのうち失敗はわずか2回という高い信頼性を示しました。最後の使用は1971年でした。

キャスターII

キャスターIIは、キャスターIの設計を改良し、モータ長を約5.96メートルから約6.27メートルに延長した性能向上型です。1965年にスカウトAロケットで初めて使用され、1994年のスカウトG型の最後の打ち上げまで長きにわたり運用されました。スカウトシリーズだけでなく、ソラド・アジェナロケットや、デルタL型以降の200番台のデルタロケット、さらにはそれらの派生型である日本のN-I、N-II、H-IロケットのSOBとしても広く利用されました。また、Strypi IIARやStrypi VIIARといった弾道飛行ロケットの第2段としても使われています。

キャスターIV

より大型のロケットモータとして開発されたのがキャスターIVです。これは、弾道ミサイルの再突入技術実証を目的とした弾道飛行ロケット、アテナHの第2段として設計されました。キャスターIやIIから大幅にスケールアップされ、直径は約1メートル（およそ40インチ）、モータ長は最大9メートルまで延長されています。推力偏向制御（TVC）能力の有無によって、キャスターIVAとキャスターIVBに分類され、さらにそれぞれにモータ長を12メートルまで伸ばしたXL型が存在します。

キャスターIVA

キャスターIVAは、TVC能力を持たない固定ノズル仕様のキャスターIVです。基本のキャスターIVからモータ長がわずかに延長されています。特定の傾斜角（キャント角）を持たせたキャスターIVAは、デルタロケットの4000番台および5000番台、デルタIIの6000番台、アトラスIIAS、コネストガ1600番台といったロケットの補助ブースターとして使用実績があります。一方、キャント角のないキャスターIVAは、オービタル・サイエンシズ社（OSC）のプロスペクター弾道飛行ロケットとして単体で用いられました。

キャスターIVA-XL

キャスターIVAの全長を約1.43メートルから約1.8メートル延長した強化型がキャスターIVA-XLです。アトラスおよびコネストガロケットの補助ブースターとして開発が進められ、1992年と1993年には試験飛行が成功しましたが、最終的にこれらのロケットには採用されませんでした。しかし、1990年代後半には、日本のH-IIAロケットの固体補助ブースター（SSB）候補の一つとして選定され、H-IIAの初期の打ち上げ（2022型や2024型）で使用されました。H-IIAへの搭載にあたっては、指令破壊システムの変更、機体との結合部のSRB-Aモーターとの共通化、モータケースの補強、ノズル膨張比の拡大とキャント角の変更、ノズルスロート材の高性能化（3D-C/C採用）など、様々な改修が行われています。三菱重工へのH-IIA運用移管後、生産ラインの簡素化方針によりSSB使用バリエーションが廃止されたため、2008年の14号機以降は使用されていません。

キャスターIVB

キャスターIVBは、TVC能力を持つキャスターIVの派生型です。ヨーロッパ宇宙機関（ESA）が開発した観測ロケットMAXUSの第1段として採用されました。また、スペイン初の人工衛星打ち上げロケットとして1992年に計画されたカプリコルニオにおいても、第1段の補助ロケットとしてキャスターIVBを使用する予定でしたが、この計画は1994年に中止されました。

キャスターIVB-XL

ピーター・ディアマンデス氏が創設したインターナショナル・マイクロスペース社が開発した、低コストの人工衛星打ち上げロケットORBEXの第1段として、キャスターIVBを基に開発されたのがキャスターIVB-XLです。1991年と1993年に成功裏に飛行しました。

キャスター120

キャスター120は、アメリカ空軍のピースキーパー弾道ミサイルの第1段ロケットモータであるSR118の民生用バージョンとして開発されました。既存技術の活用により高い信頼性を持ちながら、中型のロケットブースターとして設計されています。名称末尾の「120」は、当初の計画段階における補助ロケットの質量を1000ポンド単位で示したものですが、モータケースに炭素繊維強化プラスチック（CFRP）を採用したことで、実際の重量は計画時よりも約3000ポンド（約1.4トン）軽量化されました。可動ノズルによるTVC機能を備えていますが、固定ノズルとして使用することも可能です。このモーターは、ロッキード・マーチンの小型人工衛星打ち上げロケット「アテナI」の第1段として初めて用いられ、性能向上型のアテナIIでは第1段と第2段の両方に採用されました。現在も、ノースロップ・グラマンが運用するミノタウロスCロケット（旧OSCのトーラス）の第0段ブースターとして活用されています。

キャスター30

キャスター120の技術をベースに、低コストかつ堅牢な上段ステージモーターとして開発されたのがキャスター30です。OSC（現在はノースロップ・グラマンの一部）が商業軌道輸送サービス向けに開発したアンタレスロケットの第2段モーターとして採用されたほか、ロッキード・マーチンが計画するアテナIcロケットの第2段モーターとしても採用が予定されています。2009年12月10日に米空軍アーノルド工業開発センターで初の高空燃焼試験が実施され、2013年4月のアンタレスロケット初号機で実機が初めて使用されました。キャスター30には、打ち上げ能力向上に対応するため、30A、30B、30XLの3つのタイプが存在し、アンタレスロケットの改良に合わせて順次切り替えが進められています。基本型の30Aは長さ約138インチ、直径約92インチ、重量約30,000ポンドですが、長さを延長しノズルも大型化した30XLでは、長さ約236インチ、重量約58,000ポンドとなり、大幅な性能向上を実現しています。

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