キャッサバ

キャッサバ：熱帯の恵み、その多様な姿

キャッサバ（学名: Manihot esculenta）は、トウダイグサ科に属する熱帯性の低木であり、世界中で重要な食料源として栽培されています。マニオク、マンジョカ、カサーバ、ユカなど、地域によって様々な名前で呼ばれています。原産地は中南米で、熱帯地域を中心に広く栽培されています。その根茎はデンプンを豊富に含み、タピオカの原料となるほか、食料、飼料、バイオ燃料の原料としても活用されています。

概要

キャッサバは、その栽培の容易さと高い生産性から、世界中で約10億人の食糧とエネルギー源を担う重要な作物です。イネ、トウモロコシ、コムギに次ぐ炭素資源として認識されています。主食としての利用はもちろん、バイオマスエタノールや家畜の飼料としても活用されるなど、その用途は多岐に渡ります。茎は直立し、根元には数本の芋が同心円状に付きます。芋は両端が尖った細長い形状をしています。

栽培

キャッサバは、切った茎を土に挿すだけで簡単に栽培できます。1年ほどで2〜3mの高さに成長し、1株あたり約20kgの芋を収穫できます。作付面積あたりのカロリー生産量は他の芋類や穀類よりも多く、デンプン質の生産効率が高いのが特徴です。しかし、食用にするには毒抜き処理が必要で、処理後の芋は腐りやすいため、その場で加工する必要があります。乾燥地、酸性土壌、貧栄養土壌でも生育できるため、これまで農地として利用されていなかった場所でも栽培が可能で、食糧問題や地球温暖化問題の解決に貢献できると期待されています。

品種

キャッサバには、大きく分けて苦味種と甘味種があります。苦味種は外皮にシアン化合物が多く含まれており、主にデンプン源として栽培されます。甘味種は毒抜き処理後、茹でたり蒸したりして食用にされます。味は甘味の少ないサツマイモに似ています。

生産

2019年の全世界の生産量は3億トンを超え、主食となる芋類の中ではジャガイモに次いで第2位です。アフリカ州が生産量の半分以上を占め、次いでアジア州、南アメリカ州となっています。日本国内では、沖縄県や鹿児島県などの温暖な地域で栽培されています。

加工と調理

毒抜き

キャッサバには有毒な品種も含まれているため、安全に食べるためには毒抜き処理が必要です。毒抜き方法は、品種の選択、水にさらす、酵素で分解する、発酵させる、加熱するなど様々です。

調理

キャッサバは、蒸したり、茹でたり、揚げたりして食べられます。アフリカではウガリやフフの材料に、南米ではファリーニャやファロファの材料に使われます。また、キャッサバの粉を使ったパンも広く親しまれています。キャッサバデンプンはタピオカの原料として、デザートや飲み物のトッピングとして人気です。

工業利用

キャッサバから作られるタピオカデンプンは、世界的に需要が増加しています。キャッサバチップはエタノール（バイオマスエタノール）の原料としても利用され、さらに酢酸エチルなどの有機化学製品の原料にもなっています。

栽培史

キャッサバの起源は中央ブラジル西部とされ、1万年以上前から栽培されていたと考えられています。15世紀末までには南アメリカ北部、中央アメリカ南部、西インド諸島の人々の主食となり、植民地時代には奴隷貿易の食料としてアフリカに広まりました。その後、アジアにも伝わり、現在では世界中で栽培されるようになりました。

アフリカへの普及

キャッサバは、アフリカではやせた土地でも栽培できることや収量が多いことから、飢饉対策として奨励され、急速に栽培が広がりました。

アジアへの普及

アジアには、17世紀にフィリピン、18世紀にはインドネシアに伝わり、その後東南アジア各地に広がりました。

伝説

ブラジルの先住民には、キャッサバは死んだ少女の遺体から生じたという伝説があります。

病害

キャッサバには、褐色条斑ウイルスやキャッサバモザイク病などの病害が発生することがあり、収穫量に大きな影響を与える可能性があります。そのため、抵抗性品種の開発が進められています。

cDNAライブラリ

理化学研究所では、キャッサバのcDNAライブラリを作成し、環境ストレスに対するキャッサバの応答メカニズムの研究に活用しています。

キャッサバは、その高い生産性と多岐にわたる利用価値から、今後も世界の食料問題やエネルギー問題の解決に貢献することが期待されています。

参考資料

• - ヴァルデ=マール 再話・絵、永田銀子 訳『世界をささえる一本の木 —ブラジル・インディオの神話と伝説』福音館書店、1996年
• - JICA（国際協力機構）井芹信之「キャッサバの基礎の基礎がわかる キャッサバABC」2016年8月
• - 農研機構「キャッサバ」2018年2月8日
• - 理研 BRC 実験植物開発室「植物遺伝子材料カタログ」
• - 理研植物科学研究センター「キャッサバ完全長cDNAクローンソース情報(Manihot esculenta Crantz)」

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