キャット・ジンガノ

アメリカ合衆国出身の女性総合格闘家、キャット・ジンガノは、1982年7月1日にミネソタ州でキャシリー・デボラ・アルバートとして誕生した。彼女の格闘技キャリアの礎は、12歳で始めたレスリングにある。大学時代には全米王者に輝き、NCAAオールアメリカンに4度選出されるなど、アマチュアレスリングの世界で傑出した実績を残した。その後、2007年にはブラジリアン柔術を始め、グラウンドスキルも磨いた。柔術では紫帯を取得している。

アマチュア総合格闘技で3勝1敗の戦績を収めた後、2008年6月13日にプロへ転向。デビュー戦では腕ひしぎ十字固めによる一本勝ちを収め、順調なスタートを切った。初期キャリアではバーブ・ホンチャックやカリーナ・ダムといった選手に勝利を重ね、特に2011年5月14日には日本の端貴代からスラムからのパウンドでKO勝利を奪っている。また、この時期にはROFやFTWといった団体のバンタム級およびフライ級王座も獲得しており、プロ総合格闘家としての地位を確立していった。Invicta FC 3では後のUFCファイターとなるラケル・ペニントンをチョークスリーパーで仕留めるなど、デビューから無傷の9連勝を記録し、世界の舞台へとその名を轟かせた。

2013年4月13日、ジンガノは満を持して総合格闘技界最高峰の舞台、UFCに参戦する。デビュー戦の相手は、当時女子バンタム級ランキング1位だったミーシャ・テイト。この試合は、UFC登竜門番組「The Ultimate Fighter 17」のフィナーレで行われた注目の一戦だった。試合は熾烈な展開となり、最終ラウンドまでもつれ込む。そして3ラウンド、ジンガノはパンチと膝蹴りの猛攻を浴びせ、レフェリーストップによる逆転TKO勝利を収めた。この劇的な勝利は「ファイト・オブ・ザ・ナイト」に選ばれ、UFCの歴史において女子選手として初めて同賞を獲得するという快挙を成し遂げた。この勝利によって、彼女は次期UFC女子世界バンタム級王者ロンダ・ラウジーへの挑戦権と、「The Ultimate Fighter 18」のコーチ役という重要な役割を手に入れた。しかし、その矢先、練習中に膝に大怪我を負ってしまう。手術を余儀なくされ、長期欠場となった結果、獲得していた挑戦権とコーチ役の座を、皮肉にもテイトに譲ることとなった。

キャリアが停滞する中、ジンガノはさらなる個人的な悲劇に見舞われる。2014年1月13日、ブラジリアン柔術家で夫であったマウリシオ・ジンガノ氏が自らの命を絶ったのである。夫の死という深い悲しみを乗り越え、彼女はシングルマザーとして再びオクタゴンに戻る決意をする。

2014年9月27日、UFC 178で約1年半ぶりに復帰したジンガノは、後にUFC二階級王者となるアマンダ・ヌネスと対戦。この復帰戦でもパウンドと肘によるTKO勝利を飾り、プロデビュー以来の連勝記録を継続させた。そして、満を持して世界タイトル挑戦の機会が訪れる。2015年2月28日、UFC 184のメインイベントでUFC世界女子バンタム級王者ロンダ・ラウジーとのタイトルマッチが実現した。しかし、この運命の一戦は、多くの予想を裏切る衝撃的な結末を迎える。試合開始わずか14秒、ジンガノはラウジーの代名詞ともいえるストレートアームバーを極められ、タップ。無念の一本負けとなり、王座獲得は叶わなかった。

タイトル戦での敗北後、ジンガノは苦しい時期を迎える。2016年7月9日のUFC 200ではジュリアナ・ペーニャに判定で敗れ、連敗を喫した。2018年3月3日のケトレン・ヴィエラ戦でも、僅差の判定で敗北が続いた。しかし、同年7月14日にはマリオン・レノーに判定勝ちを収め、再び勝利を手にした。キャリア終盤、階級をフェザー級に上げて臨んだ2018年12月29日のミーガン・アンダーソン戦では、不慮のアクシデントに見舞われる。相手の足の指が目に入り、試合続行不可能と判断され1ラウンドTKO負けとなった。ジンガノはこの結果に強く抗議し、提訴したが、正規の反則には当たらないとして棄却された。そして2019年8月14日、彼女はUFCからリリースされることとなった。

UFCを離れた後、ジンガノはBellator MMAと契約。2020年9月11日に行われたBellator 245でギャビー・ホロウェイを相手に新たな舞台でのデビュー戦を行い、判定勝利を飾った。

キャット・ジンガノのキャリアは、レスリングで培った圧倒的なフィジカルとグラウンドスキル、そして打撃も兼ね備えたバランスの取れたスタイルが特徴である。UFCでの劇的な勝利、度重なる逆境（大怪我、夫の死）、そしてタイトル挑戦での短い敗北など、波乱万丈な道のりを歩んできた。一児の母として、競技生活と子育てを両立させる姿は、多くの人々に勇気を与えている。総合格闘技のトップ戦線で長きにわたり戦い続ける彼女の今後の活躍にも注目が集まる。

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