キュルテペ

キュルテペ遺跡：古代オリエントの商業都市とヒッタイト人の起源

キュルテペ（Kültepe、「灰の丘」の意）遺跡は、トルコ共和国のカイセリ県に位置する、古代オリエントを代表する重要な遺跡です。カイセリ市から約20km南西に位置し、遺丘であるキュルテペ本体と、麓の古代都市跡から構成されています。

カネシュ：アッシリアの商業植民地

紀元前20世紀のアッシリアの文書では、キュルテペは「カネシュ（Kaneš）」と呼ばれていました。この地は、銅器時代からローマ時代まで、ハッティ、ヒッタイト、フルリなど様々な勢力の支配下に置かれ、重要な都市として発展を遂げました。

特に紀元前21～18世紀には、アッシリア商人が建設した「カールム」（商業植民地）が存在し、アナトリア全域におけるアッシリア商業網の中心地として機能していました。カールムは、アッシリア商人のための税免除区域であり、彼らは現地産の錫や羊毛をアッシリア本土やエラムの製品と交換する貿易を盛んに行っていました。

カールム・カネシュでは、アッシリア人商人と現地住民、さらにはアッシュールなどの都市国家との間の経済活動が活発に行われており、その様子は膨大な数の楔形文字粘土板から読み取ることができます。これらの粘土板には、国家間の交易だけでなく、家族単位で行われた貿易の詳細な記録も残されています。

ヒッタイト人の起源と関連

ヒッタイト人は、カネシュを自分たちの原郷とする伝説を持っており、彼らの言語であるヒッタイト語を「ネシリ（nešili）」、つまり「ネサの言葉」と呼んでいました。ネサ（Neša）は、ヒッタイト人がカネシュを呼んだ名称の一つです。

ヒッタイト王国の成立神話では、クッシャラの王族がカネシュ（ネサ）を征服し、支配権を確立したと伝えられています。この物語の信憑性は不明な点もありますが、考古学的証拠から、アニッタ王がカネシュを支配下に置いたことは確かだと考えられています。その後、ヒッタイト人は首都をハットゥシャに移し、ヒッタイト王国を建設しました。ヒッタイト語を「ネサの言葉」と呼ぶのは、カネシュという地との深い歴史的結びつきを示しています。

考古学的発見

キュルテペ遺跡の発掘調査は1925年に始まり、現在までに2万枚を超える楔形文字粘土板が発見されています。これらの粘土板には、アッシリア語で書かれたものが多く、中にはヒッタイト語の借用語や固有名詞が含まれており、インド・ヨーロッパ語族最古の言語資料となっています。

発掘された遺構は、複数の層にわたって存在しており、古代都市カネシュの歴史を紐解く貴重な情報源となっています。層序学的分析から、カールムは少なくとも2回の大規模な火災によって破壊されたことが分かっています。これらの火災の原因については、様々な説が提唱されていますが、アッシュールやエシュヌンナといった周辺勢力の攻撃が関係していた可能性も示唆されています。

キュルテペ遺跡の発掘によって出土した大量の遺物と楔形文字粘土板は、古代オリエントの歴史、特にアッシリアとヒッタイトの歴史研究において非常に重要な位置を占めています。今後さらなる研究が進展することで、この地が秘める謎が解き明かされることが期待されます。

ワルシャマ・サライの年代

キュルテペ遺跡における重要な建造物の一つであるワルシャマ・サライの年代測定は、年輪年代学を用いて行われ、紀元前1832年、後に紀元前1779年と修正されました。この年代測定は、キュルテペ遺跡全体の年代を確定する上で重要な役割を果たしています。

もう一度検索