キランソウ

キランソウ（筋骨草）

キランソウ（学名：Ajuga decumbens）は、シソ科キランソウ属に分類される多年生の草本です。日本の本州、四国、九州をはじめ、朝鮮半島や中国にも自生する在来種で、特別な環境でなくとも、道端や野原、公園など、私たちの身近な場所でよく見かけることができます。草丈が低く、地表に張り付くように葉を広げて生育するのが特徴です。その姿かたちや、古くから薬草として重宝されてきたことから、「ジゴクノカマノフタ」や「イシャゴロシ」といった、一度聞いたら忘れられないようなユニークな別名を持っています。

名前の由来

「キランソウ」という和名の語源については、いくつかの説があり、決定的なものはありません。一説には、紫色の美しい花がランの花に似ていることから「紫蘭草（しらんそう）」が転訛したともいわれています。また、「キ」を紫の古語、「ラン」を藍色と解釈し、花の色合いに由来するという説や、地面を這って広がる様子が、金糸などで織られた豪華な織物である金襴（きんらん）を思わせることから「金襴草」と名付けられたという説などがあります。

別名として広く知られる「ジゴクノカマノフタ（地獄の釜の蓋）」は、「地獄の釜の蓋」と書きます。これは、株元から放射状に広がる根生葉が地面にぴったりと張り付いている様子を、地獄の釜の入り口に被せる蓋に見立てたものです。この名前には、キランソウの高い薬効にまつわる意味合いも込められています。様々な病気に効くことから、医者にかかる必要がなくなり、「これで地獄に落ちずに済む」といった解釈や、「病気を治癒させて、文字通り地獄の釜に蓋をする」という意味が由来になったとも伝えられています。同様に、医者が不要になるほどの薬効を意味する「イシャゴロシ（医者殺し）」という別名もあります。

このほかにも、地方によっては「イシャイラズ」「イシャナカシ（愛媛県）」「オドゲソウ（鹿児島県）」「チチグサ（愛媛県、鹿児島県）」「チリメンソウ（三重県）」など、様々な方言名で呼ばれて親しまれています。

漢名（中国での呼び名）は「金瘡小草（きんそうしょうそう）」といいます。「金瘡」とは刀傷や切り傷を意味しており、キランソウの葉を傷口に塗ると効き目があることから名付けられたものです。

キランソウは仲春の季語としても用いられ、花言葉は「あなたを待っています」「追憶の日々」「健康をあなたに」です。

分布と生育環境

キランソウは日本在来の植物で、日本の本州、四国、九州のほか、朝鮮半島や中国にも分布しています。生育場所としては、草丈の低い開けた土地を好み、草地や土手、丘陵地、山里、道ばた、公園などでよく見られます。日当たりが良く、水はけの良い土地を好む性質があり、石垣の間やその下の地面などに這うように広がって群生している姿も見られます。

形態

キランソウは一年を通して見られる多年草で、全体に縮れた粗い毛が多く生えています。草丈は通常2センチメートルから20センチメートルほどと低く、茎は地面に対して直立せず、四方に分枝して広がります。株全体としては、地面に葉が張り付くようなロゼット状の円盤形になります。地面を這うように伸びる匍匐茎（ランナー）に似た花茎を出しますが、シソ科の植物としては珍しく、この茎の節から根を出すことはありません。また、茎の断面が丸いこともシソ科の植物としては異例の特徴です。

葉は茎に対になってつく対生（たいせい）です。株元につく根生葉はやや大型で、長さ4〜6センチメートル、幅1〜2センチメートルほどになります。形は、先端側が広く基部に向かって徐々に狭まる披針形から倒披針形をしています。葉の縁には、波を打つような粗い鋸歯（きょし）があります。葉の表面は光沢のある濃い緑色で、裏面は多くの場合、紫色を帯びています。株元の葉は地面に放射状に広がっています。

花期は春から初夏にかけての3月から5月頃です。茎の先端に近い葉の付け根（葉腋）に、濃紫色の小さな花を数個つけます。花は直径が5〜10ミリメートルほどの唇形花（しんけいか）です。花弁は上下に分かれており、上唇は下唇に比べて非常に小さく、2つに裂けています。下唇は大きく発達して平らに広がり、3つに深く裂けています。特に中央の裂片は長く突き出ており、先端はまっすぐ切れたように見え、中央がわずかに切れ込んだように浅く2つに裂けています。日当たりの良い場所では、冬の時期にも開花することがあります。萼は深く5つに裂けており、毛が生えています。

果実は分果（ぶんか）と呼ばれるタイプで、一つの花につき4個できます。長さは1.5ミリメートルほどの小さな球形です。熟すと、花がしぼんだ後も残る萼（宿存萼）の中で4つに分かれ、脱落しやすくなります。分果は緑褐色をした丸みのある倒卵形（とうらんけい）で、表面にははっきりと目立つ凸凹した網目模様があります。果実の腹面には、種子がついていた大きめの楕円形のへそ（着点）が見られます。キランソウは種子によって増えるほか、株が分かれることでも繁殖します。

利用

キランソウは古くから薬草として利用されてきました。開花期に採取した全草を乾燥させたものは、「筋骨草（きんこつそう）」という名前で生薬として扱われます。ただし、漢方方剤に配合されることはなく、主に民間薬として用いられてきました。

民間療法では、高血圧、咳を鎮める作用（鎮咳）、痰を切る作用（去痰）、解熱、胃腸の調子を整える作用（健胃）、下痢止め、切り傷などに効果があるとされています。特に、組織を引き締める収斂（しゅうれん）作用があることが知られています。

利用法としては、開花期に全草を採取し、土などを洗い落として天日乾燥させたものを煎じて服用するのが一般的です。乾燥品を1日量として5〜7グラム程度、水300ccで量が半分になるまで弱火で煎じるか、または1日量15グラムを水500ccで煎じた液を、1日3回に分けて服用する方法があります。煎じ液は強い苦味があります。また、ウルシによるかぶれの患部に、この煎じ液を塗布する用法も知られています。

乾燥させたものだけでなく、生の葉や茎も利用されます。火傷、切り傷、毒虫に刺された傷、あせもなどには、生の葉をすり潰して得られた汁を直接患部につける方法が有効とされています。腫れ物や打撲には、葉や茎を軽く火であぶって柔らかくし、それを布や紙に広げて患部に貼り付けるといった昔ながらの利用法も伝えられています。

近縁種

キランソウによく似た仲間がいくつかあります。ヨーロッパ原産で、花が茎の高い位置につくセイヨウキランソウは、ヨウシュキランソウやアジュガとも呼ばれ、園芸植物として広く栽培されています。また、林の中に生えるジュウニヒトエやニシキゴロモなどもキランソウ属の植物です。ジュウニヒトエとは自然環境下で交雑し、雑種ができることもあります。

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