キルション (ミサイル)

キルション：イスラエルの自走式対レーダーミサイルランチャー

キルションは、1970年代にイスラエルで開発された自走式ミサイルランチャーです。旧式化したスーパーシャーマン戦車の車体に、テキサス・インスツルメンツ製のAGM-45 シュライク対レーダーミサイルを搭載しています。1973年の第四次中東戦争の戦訓に基づいて開発され、1982年のガリラヤの平和作戦で運用されました。

名称の「キルション」は、ヘブライ語で「トライデント（三叉槍）」を意味する言葉に由来します。また、「Kachlilit」または「Chachlilit」という別名でも知られています。

開発の背景

第四次中東戦争の緒戦で、イスラエル空軍はシリア軍とエジプト軍が配備したソ連製の地対空ミサイルシステムによって、多くの航空機を失いました。その後、イスラエル空軍はアメリカからAGM-45 シュライクの供与を受け、これらに対抗しました。しかし、AGM-45はF-4E戦闘機に搭載して空中から発射する必要があり、射程も十分ではなかったため、敵の地対空ミサイルサイトに接近する必要があり、発射する航空機自身が被弾する危険性がありました。

キルションの開発

この問題を解決するため、当時のイスラエル空軍総司令官ダヴィド・イヴリーの主導により、AGM-45を地上から発射する車両の開発が進められ、キルションが完成しました。キルションは、砲塔を取り外したスーパーシャーマンの車体にミサイル発射機を搭載した構造で、発射機の回転軸は元の砲塔と同じ位置にありました。また、AGM-45には地上からの飛翔を可能にし、射程を延伸するために、AGM-45本体よりもやや大きいサイズのロケットブースターが取り付けられました。

キルションの総生産数は不明ですが、キルション各5両を装備する2個中隊からなる第153大隊が編成されたとされており、少なくとも10両以上は生産されたと見られています。改造に使用されたシャーマンの車台は、現存する車両の写真からM4A1車体とM4ハイブリッド車体が確認できるため、特に限定はされていなかったと考えられます。

ケーレスの開発と運用

イスラエル軍は、アメリカ軍からより新しいAGM-78 スタンダード対レーダーミサイルのイスラエル向け廉価版である「パープル・パンチ」の導入を開始しました。これの地上発射式車両としてケーレスの開発をジェネラル・ダイナミクスに依頼しましたが、シャーマン戦車の退役が進んでいたため、車台はM809 5tトラックに変更されました。ケーレスの生産数も不明ですが、キルションと同じ第153大隊に配備されました。

実戦投入とその後

1982年のガリラヤの平和作戦（レバノン侵攻）の際、北部のベッカー高原に展開していたシリア軍の地対空ミサイルサイトへの攻撃作戦「モール・クリケット19作戦」に、キルションおよびケーレスを擁する第153大隊が実戦投入され、戦果を挙げたとされています。

キルションは1980年代に、ケーレスは1990年代後期に退役しました。第153大隊は編成当初、パルマヒム空軍基地を拠点としていましたが、後にラマト・ダヴィド空軍基地に移動し、ケーレスの退役に伴い解散しました。現在では、レーダー波を探知し、発射源に突入して自爆攻撃を行う無人航空機IAI ハーピーが、キルションやケーレスの任務を担っています。

残存するキルションの実車は、イスラエル南部地区のハツェリム空軍基地に併設されているイスラエル空軍博物館に展示されています。

関連項目

M4中戦車
スーパーシャーマン
AGM-45 シュライク
ケーレス
AGM-78 スタンダード
IMI サムソン - IMIによってライセンス生産された空中発射式デコイ。キルション・ケーレスと共にシリア軍の地対空ミサイルサイト制圧に投入された。
タディラン マスティフ - 1970年代末期に実用化されたタディラン電子工業製無人航空機。キルション・ケーレスと共にシリア軍の地対空ミサイルサイト制圧に投入された。
IAI スカウト - 1970年代末期に実用化されたIAI製無人航空機。キルション・ケーレスと共にシリア軍の地対空ミサイルサイト制圧に投入された。
* IAI ハーピー - IAI製の無人航空機で、敵の防空レーダーに突入して自爆する能力を持つ。

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