ギャバジン (織物)

ギャバジン

ギャバジン（英語: gabardine）は、しっかりとした打ち込みで織られた、耐久性の高い綾織物の名称です。この生地は、その堅牢さから、主にスーツや外套、ズボン、あるいは様々なユニフォームやウインドブレーカーなどに幅広く利用されています。日本ではしばしば短く「ギャバ」とも呼ばれます。

素材としては、伝統的には梳毛（そもう）と呼ばれるタイプの羊毛（ウール）が用いられてきました。しかし、現代では綿（コットン）やポリエステル繊維、あるいはこれらの繊維を混ぜ合わせた混紡素材でも織られています。素材によって生地の特性や用途は異なり、本格的な冬の寒さに対応する重厚な衣類にはウール製のギャバジンが適していますが、より軽量で通気性が必要な春先や秋口のコートには、綿や化学繊維で織られたものが多く使われます。

ギャバジンの織り方は綾織り特有のもので、通常の綾織りよりも綾目（斜めに走る織り糸の筋）が強く、はっきりとした角度で現れることが多いです。これにより、生地の表面には独特の斜めのパターンが浮かび上がります。一方で、生地の裏面は比較的平滑で滑らかに仕上がるのが特徴です。この織り方においては、生地の強度を高めるために、縦方向の糸（経糸）の数が横方向の糸（緯糸）の数よりも常に多くなるように設計されています。

オーダーメイドの洋服を仕立てる際には、細部にギャバジンが活用されることもあります。例えば、背広のポケットの裏地として、通常の薄い生地ではすぐに穴が開いてしまう可能性がある場合に、丈夫なコットン製のギャバジンが使われることがあります。これにより、ポケットの耐久性が向上し、長く使用できるようになります。

ギャバジンで作られた衣類のお手入れについては、多くの場合、ウール製のスーツなどがそうであるように、専門のドライクリーニングが推奨されています。これは、生地の風合いや形状を損なわずに、長く良い状態を保つための一般的な方法です。

「ギャバジン」という言葉は、単に特定の織物を指すだけでなく、この織物そのものを指す名称としても使われますし、さらにこの生地を用いたレインコートを指す場合もあります。このように、布の名称、織りの技法、そして特定の製品名を兼ねる多義的な言葉として使われています。

歴史的背景

ギャバジンは、19世紀末にイギリスで誕生しました。正確には、イングランド南部のハンプシャー州ベイジングストークにあった洋装店、バーバリーの創業者であるトーマス・バーバリーによって、1879年に発明され、1888年に特許が取得されました。バーバリーが目指したのは、当時の雨具に用いられていたゴム引きの布地に代わる、防水性と通気性を兼ね備えた画期的な素材でした。

彼は、製織工程に入る前に繊維に防水加工を施し、それを非常にきつく織り上げるという方法を開発しました。これにより生まれた布は、水をしっかりと弾きながらも、蒸れにくく快適な着心地を実現しました。この新しい布地は、ゴム引き布の不快感を解消し、屋外での活動に革命をもたらしました。

この布地の名称である「ギャバジン」は、元々中世ヨーロッパで着用されていた、ゆったりとしたケープやガウンを意味する言葉「gaberdine」または「gabardine」に由来しています。やがてこの言葉は、雨天時に身を守るクロークや、体を保護するためのスモックといった意味合いを持つようになり、トーマス・バーバリーはこの丈夫で防水性のある布地にこの歴史的な名称を与えたのです。

バーバリー製のギャバジンを用いた服は、その卓越した機能性と耐久性から、過酷な環境下での探検に挑む人々からも絶大な信頼を得ました。例えば、1911年に人類史上初めて南極点に到達したノルウェーの探検家ロアール・アムンセンや、後に悲劇的な南極大陸横断探検を率いたアーネスト・シャクルトンといった著名な極地探検家たちが、バーバリーのギャバジン製ウェアを愛用しました。また、1924年にエベレスト初登頂を目指して遭難したイギリスの登山家ジョージ・マロリーも、最後に着用していたジャケットはこの生地でできていたと言われています。

第二次世界大戦後、ギャバジンはアメリカ陸軍の軍服に採用されていたことから、終戦後の日本でも流行しました。しかし、当時の経済統制下では、この高級な生地で作られたゆったりとしたシルエットのスーツ（いわゆるボールドルック）を着られる人は限られていました。そのため、そのようなスーツを着ている裕福な人々を指して「ギャバ人種」という俗語が生まれたとも伝えられており、当時の社会状況を反映する言葉として興味深いエピソードです。

このように、ギャバジンは単なる布地としてだけでなく、機能性の追求、歴史的な探検、そして社会的な背景とも深く結びついた、非常に豊かな物語を持つ素材と言えます。

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