ギュミル

ギュミルは、北欧神話において豊穣神フレイの妻であるゲルズの父親として登場する巨人で、名前は「海」を意味します。

解説

スノッリ・ストゥルルソンの『散文のエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』では、ギュミルの妻は山の巨人アウルボザであると記されています。ゲルズの言葉によれば、ギュミルは莫大な黄金を持つ資産家であり、短気な性格で、すぐに斬り合いを始めるとされています。また、ゲルズの部屋の前には獰猛な番犬が繋がれており、娘に対する深い愛情が窺えます。

一方で、『詩のエッダ』の『ロキの口論』には、アース神族のために酒宴を催す海神エーギルが「別名ギュミルとも呼ばれるエーギル」と記述されており、ギュミルとエーギルが同一視されることがあります。しかし、『ロキの口論』の別の箇所では、エーギルが広間にいるにもかかわらず、ロキがフレイに向かって「ギュミルの娘」と発言しており、この「ギュミル」がエーギルを指しているのか、ゲルズの父親を指しているのかは明確ではありません。

ギュミルの名前は、「海」を表すケニングとしても使用されることがあります。『散文のエッダ』の『詩語法』では、「波」のケニングとして、詩人レヴによる「ギュミルの冷たき巫女」という表現が紹介されています。

ギュミルの人物像は、文献によって描かれ方が異なり、その点が興味深い要素となっています。ゲルズの父親としての側面と、海神エーギルとの関連性、そして「海」のケニングとしての用法など、多角的な視点からギュミルを考察することで、北欧神話の世界観をより深く理解することができます。

ギュミルの持つ多面性

資産家としての側面: 莫大な黄金を所有し、ゲルズが語るように非常に裕福な生活を送っていたことが伺えます。これは、彼が単なる巨人ではなく、財力を持った有力者であったことを示唆しています。
短気な性格: すぐに斬り合いを始めるという記述からは、好戦的な一面が垣間見えます。これは、巨人族に共通する特徴とも言えるでしょう。
娘への愛情: ゲルズの部屋の前に獰猛な番犬を配置していることから、娘を深く愛し、守ろうとする親心が伝わってきます。
海神エーギルとの関連性: 同一視されることもあれば、区別されることもあるという曖昧な関係性は、ギュミルの神話における立ち位置を複雑にしています。

このように、ギュミルは様々な側面を持つ存在であり、北欧神話の奥深さを感じさせる要素の一つと言えるでしょう。

参考文献

谷口幸男「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3、1983年。
V.G.ネッケル他編 『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。

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