山の巨人

北欧神話における山の巨人：その起源と役割

北欧神話において、巨人は様々な種類が存在しますが、その中でも「山の巨人（古ノルド語: bergrisi）」は重要な存在です。本稿では、彼らの系譜、神話における描写、そして現代アイスランドにおける象徴性について考察します。

山の巨人の系譜と神話における登場

山の巨人の系譜は、いくつかの神話から断片的にしか見えてきません。豊穣神フレイの妻ゲルズの母であるアウルボザは、その名を明らかにされている数少ない山の巨人の一人です。また、『古エッダ』の『グロッティの歌』では、イジとアウルニルという兄弟から生まれたフェニヤとメニヤが登場します。彼女たちは自身の祖先にシャツィとフルングニルを挙げ、特にフルングニルは石でできた頭部と心臓を持っていたとされています。これらの記述からは、山の巨人が独自の系譜と特徴を持つ存在であることが伺えます。

神話において、山の巨人は様々な場面で登場します。例えば、『ギュルヴィたぶらかし』では、アースガルズの城壁を修理した石工として無名の山の巨人が登場し、その卓越した技量を示しています。また、バルドルの葬儀の場面では、霜の巨人と共に参列している描写が見られます。これらの記述から、山の巨人は単なる力を持った存在ではなく、神々の世界に影響を与える存在として描かれていることがわかります。

アイスランドにおける山の巨人の象徴性

現代アイスランドにおいて、山の巨人は単なる神話上の存在にとどまらず、重要な象徴となっています。これは、『ヘイムスクリングラ』の『オーラヴ・トリュッグヴァソンのサガ』に収録されたエピソードに由来します。このサガでは、デンマーク王ハラルド・ゴルムスソンがアイスランド侵攻を企てますが、偵察に送った魔法使いが巨鳥、ドラゴン、雄牛、そして山の巨人によって上陸を阻まれます。これらの存在は、アイスランドの守護者であるランドヴェーッティル（Landvættir）として解釈され、山の巨人はその重要な構成要素の一つとされています。

この伝承に基づき、アイスランドの国章にはランドヴェーッティルの4体、すなわち雄牛、巨鳥、ドラゴン、そして山の巨人が描かれ、国家の守護神として現在もその姿を見ることができます。さらに、アイスランド・クローナ硬貨の裏面にも、これらの4体の姿が刻まれています。これらの事実は、山の巨人がアイスランドのアイデンティティと密接に関わっていることを示しています。

まとめ

北欧神話における山の巨人は、その系譜や神話における役割、そして現代アイスランドにおける象徴性において、多角的な側面を持つ存在です。彼らの石のような不屈の精神や、アイスランドの守護者としての役割は、北欧神話研究において重要なテーマであり、現代アイスランドの文化においても重要な象徴となっています。今後の研究では、より多くの文献や伝承を分析することで、山の巨人像をより詳細に解明していくことが期待されます。

もう一度検索