ギリシャ亡命政府

ギリシャ亡命政府：第二次世界大戦下の苦難と葛藤

ギリシャ亡命政府（ギリシア語: Ελληνική Εξόριστη Κυβέρνηση）は、1941年、ギリシャがナチス・ドイツとイタリアによって占領された периодに設立された。拠点をエジプトのカイロに置いていたため、「カイロ政府」（ギリシア語: Κυβέρνηση του Καΐρου）とも呼ばれた。

成立の背景と初期

1941年4月、ドイツ軍の侵攻によりアテネが陥落の危機に瀕すると、時の首相アレクサンドロス・コリジスが自殺。ゲオルギオス2世国王はクレタ島、そしてカイロへと避難し、亡命政府を樹立した。亡命政府は、国際社会からは正当なギリシャ政府として承認されていた。

しかし、その内情は複雑だった。イギリスが亡命政府に強い影響力を行使し、ギリシャ国内のレジスタンス勢力との関係も一様ではなかった。特に、共産主義勢力が主導する民族解放戦線（EAM）や民族人民解放軍（ELAS）は、占領下で独自の政権を樹立し、亡命政府との対立を深めていった。

国王と亡命政府の苦悩

亡命政府は、成立当初から多くの課題に直面した。国王ゲオルギオス2世は、旧体制（八月四日体制）からの脱却に消極的であり、亡命政府内にも旧体制の遺物が残存していた。また、エジプトのギリシャ人コミュニティからの支持を得ることも容易ではなかった。彼らはヴェニゼロス派の傾向が強く、国王が支持するメタクサス派の閣僚に反感を抱いていたためである。

さらに、イギリスからの圧力も無視できなかった。イギリスは、ギリシャの政治に「友好的に介入する」権利があると公言し、亡命政府の政策に影響を与えようとした。外務省のある官僚は、ギリシャを「クローマー伯爵のいないエジプト」と揶揄したという。

レジスタンス運動との対立

亡命政府は、ギリシャ国内で展開されるレジスタンス運動にも複雑な感情を抱いていた。ツデロス首相は、レジスタンス運動に対するイギリスの支援を打ち切るよう外務省に働きかけた。枢軸国の報復が、抵抗活動に見合わないほど過酷であると考えたためだ。しかし、外務省は、レジスタンスへの支援は特殊作戦執行部（SOE）の責任であると指摘し、ツデロスの要求を拒否した。

SOEは、ギリシャのレジスタンス組織を支援し、破壊工作を積極的に展開した。しかし、亡命政府は、これらの活動について事前に知らされることはなく、新聞報道で初めて知るということもあった。

キプロス問題と領土拡張の野望

亡命政府は、戦後の領土問題についても積極的に関与しようとした。ツデロス首相は、イギリスに対し、キプロスとの合併を強く迫った。また、トルコ沖のドデカネス諸島やアルバニア南部、ユーゴスラビア領マケドニアなどの領有も主張した。しかし、これらの主張は、ユーゴスラビア亡命政府との間に緊張を生み、イギリスからも時期尚早であると批判された。

政府の終焉とその後

1944年、EAMはギリシャの支配地域を統治する国家解放政治委員会を宣言し、亡命政府の正統性を脅かした。同年4月には、エジプト駐留のギリシャ軍でEAM派の反乱が発生し、亡命政府は権威を失墜させた。

相次ぐ混乱を受け、ツデロス首相は辞任。後任には、ソフォクリス・ヴェニゼロス、そしてゲオルギオス・パパンドレウが就任した。パパンドレウは、レバノンでギリシャの有力政治家とレジスタンス組織の代表を集めた会議を開催し、戦後の国民投票の実施や抵抗組織の政府参加などを決定した。

1944年10月、ドイツ軍がギリシャから撤退すると、亡命政府はイギリス軍とともに帰国を果たした。しかし、その権威は大きく低下しており、戦後のギリシャは内戦へと向かうこととなる。

ギリシャ亡命政府は、第二次世界大戦という激動の時代において、多くの困難に直面しながらも、国際社会におけるギリシャの正当な代表であり続けた。しかし、その内部は様々な勢力の思惑が交錯し、国内のレジスタンス運動との対立も深まるなど、苦難の連続だったと言えるだろう。

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