クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス (紀元前265年の執政官)

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスは、紀元前3世紀中期に活躍した共和政ローマの政治家・軍人です。彼は紀元前265年に最高公職である執政官（コンスル）に選ばれましたが、同年、イタリア半島中部に位置する都市ウォルシニに対する軍事遠征中に命を落としました。

彼は、古代ローマで最も歴史ある有力な貴族（パトリキ）の一つ、ファビウス氏族に属していました。その家系は傑出しており、父もまた同名のクィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスとして、紀元前292年と紀元前276年に執政官を歴任しています。さらに、祖父には五度も執政官を務めたことで、その名を歴史に残すクィントゥス・ファビウス・マクシムス・ルリアヌスという偉大な人物がいます。そして、彼の息子は、後に「ローマの楯」と称され、第二次ポエニ戦争においてカルタゴの将軍ハンニバルに対し、直接対決を避けつつその勢力を削ぐ遅滞戦術を用いてローマを危機から救った英雄、クィントゥス・ファビウス・マクシムス・ウェッルコスス・クンクタートルです。ただし、資料によっては、紀元前292年・紀元前276年の執政官と、紀元前265年の執政官である本項のグルゲスを同一人物とする見解も存在します。

紀元前265年は、第一次ポエニ戦争が始まるわずか一年前という時期にあたります。この年、グルゲスはルキウス・マミリウス・ウィトゥルスと共に執政官職に就きました。当時、エトルリア地方でも特に歴史が古く、かつてはローマに対して激しく抵抗したものの、この頃にはローマと同盟関係にあったウォルシニで騒動が持ち上がります。ウォルシニでは、貴族階級の伝統的な権限を制限する法が成立し、これによって自らの地位に不安を感じた貴族たちが、ローマに対して軍事的な支援を求める使節を送りました。この要請に応じる形で、グルゲス（一部資料では同僚執政官ウィトゥルスも含む）が軍を率いて派遣されることとなりました。しかし、ローマからの帰還したウォルシニの使節団を、市内の平民たちが処刑したことで、事態はローマへの反乱へと発展します。グルゲス率いるローマ軍が接近すると、ウォルシニ軍は城壁の外に出て交戦しましたが敗北し、堅固な城壁に守られた市内に籠城しました。グルゲスは都市を包囲し、攻略のために攻撃を開始しましたが、この攻囲戦の最中に負傷し、それがもとで残念ながら命を落としました。ウォルシニ軍はその後も抵抗を試みましたが成功せず、食料が尽きたため、同年中または翌年に降伏しました。降伏後のウォルシニに対する処置としては、反乱を主導した者たちは処刑され、残りの市民は別の土地へ移住させられ、都市そのものは破壊されたと伝えられています。これらの措置は、グルゲスの同僚であった執政官ウィトゥルス、あるいは翌年の執政官マルクス・フルウィウス・フラックスによって行われたとされています。なお、歴史家トーマス・アーノルドは異なる説を唱えており、ウォルシニを最終的に陥落させたのはプブリウス・デキウス・ムスであり、彼はグルゲスの戦死後に補充執政官に選ばれたか、または翌年の法務官（プラエトル）か独裁官（ディクタトル）として軍事指揮権（インペリウム）を保持し、作戦を継続して都市を攻略したと論じています。

執政官としての経歴以外に、グルゲスに関するもう一つの出来事が記録に残されています。歴史家ティトゥス・リウィウスの記述によれば、紀元前271年とされる年に彼が按察官（アエディリス）を務めていた時の出来事です。当時、ギリシャ都市アポロニアからの使節団がローマの元老院を訪れましたが、グルゲスはこのアポロニア大使たちに対して、ぞんざいな対応をとったとされています。この振る舞いが問題視され、彼は裁判官の役割を担うクァエストルによって裁判にかけられることとなりました。しかし、アポロニアの大使たちは寛大にも、グルゲスに対して何の罰も求めなかったため、彼は無罪となりました。

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスは、このように、ローマがイタリア半島を統一し、地中海の覇権を巡ってカルタゴとの対決へと向かう激動の時代に生きた人物です。彼の生涯は、名門貴族の一員としての義務と、共和政ローマが直面した国内の対立や対外的な拡大に伴う困難を反映していると言えるでしょう。

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