クァエストル

クァエストル：共和政ローマの財務官

クァエストル（quaestor）は、共和政ローマにおける重要な政務官の一つです。執政官（コンスル）の下僚として、主に裁判事務と国家財政の監督・管理を担当しました。日本語では財務官や会計検査官と訳されることが多く、表記の揺れとしてクアエストル、クワエストルとも呼ばれます。特に注記がない場合は、財政担当のクァエストルを指すことが一般的です。

概要

モムゼンによれば、クァエストルの起源は執政官の補佐役であり、その職務は非常に多岐に渡りました。当初、刑事裁判においては執政官が直接裁くのではなく、彼が指名する代理人や、非常任の叛逆罪審理官、常任の殺親罪査問官を通じて判決を下していました。これらの職は王政時代から引き継がれたものと考えられ、特に殺親罪査問官は執政官の退任と共に辞任するため、常任制でありながら同僚制、一年任期であったことが、後の下級官僚制度の出発点となった可能性が指摘されています。また、国庫や公文書の管理においても、執政官を補佐するクァエストルが早い時期から存在したと推測されています。

紀元前421年になると、都市内でのみ職務を行っていたクァエストルに加え、戦争時に執政官を補佐するクァエストルが2名増員されることが提案されました。翌年には、執政武官と同様に、パトリキ（貴族）とプレブス（平民）の両方から4名ずつ選出されるよう定められ、毎年4名のクァエストルが民会で選ばれるようになりました。しかし、プレブスからクァエストルが選出されるようになるのは、紀元前409年まで待たなければなりませんでした。

その後、クァエストルはインペリウム（軍事指揮権）保持者の下僚として、対外戦争の拡大や領土の拡大に伴う国家機構の改革を機に、何度か増員されました。紀元前267年には、イタリア半島の統一を目前に控え、10名に増員されました。この頃から、クァエストルの職務範囲はさらに広がり、ローマなどの特定都市の担当、属州総督や政務官の下に配置される者、軍や軍事行動の財政担当などに分かれました。各属州には総督の下に1名ずつ配属されましたが、重要な属州であるシチリアには、東と西で合計2名が配属されました。

紀元前81年には、元老院の権限強化を目的としたスッラの改革の一環として、クァエストルに就任できる者の年齢制限が設けられ、パトリキは28歳以上、プレブスは30歳以上と定められました。また、人数も20名に増やされました。さらに、クァエストルに選出された者は自動的に元老院議員となることが規定されたとされていますが、古代史料に明記されていないことから、スッラ以前に定められていた可能性も指摘されています。元老院議員が担当する公職の中では、クァエストルは最下位に位置づけられていました。

由来

タキトゥスによれば、クァエストルの職は王政時代に存在したものをブルトゥスが復活させ、王が保持していた任命権はコンスルが受け継いだとしています。タルクィニウス・スペルブスの追放から63年後、最初のクァエストルとしてマメルクス・アエミリウス・マメルキヌスとウァレリウス・ポティトゥス（恐らくルキウス・ウァレリウス・ポティトゥス）が選出されたとされます。当初は2名でしたが、ローマの拡大に伴い2名が追加され、さらに倍増し、スッラによって20名まで拡大しました。

一方、プルタルコスによれば、初代補充執政官であるプブリウス・ウァレリウス・プブリコラが、ウァレリウス法によりサトゥルヌス神殿を国庫とし、その管理のために2名のクァエストルを民衆が選出するよう定めたとされています。

クァエストルは、共和政ローマにおいて重要な役割を果たし、その職務は時代の変遷とともに変化し、拡大していきました。彼らは、ローマの国家運営を支える重要な存在であったと言えるでしょう。

脚注

[1] モムゼン, ローマの歴史, 名古屋大学出版会, 2005.
[2] タキトゥス, 年代記
[3] プルタルコス, 対比列伝

参考文献

毛利晶『一つの市民権と二つの祖国　ローマ共和政下イタリアの市民たち』京都大学学術出版会、2022年。ISBN 978-4-8140-0376-1。
ティトゥス・リウィウス 著、岩谷智 訳『ローマ建国以来の歴史 2』京都大学学術出版会、2016年。
テオドール・モムゼン『ローマの歴史〈1〉ローマの成立』名古屋大学出版会、2005年。
T. R. S. Broughton (1951, 1986). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association

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