クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス (紀元前292年の執政官)

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲス（ラテン語: Quintus Fabius Maximus Gurges）は、古代ローマ共和政期における傑出した政治家であり軍人でした。紀元前292年と紀元前276年の二度にわたり、最高職である執政官（コンスル）を務めるなど、要職を歴任し国家に貢献しました。

経歴

彼の公職キャリアは紀元前295年に上級按察官（アエディリス・クルリス）に就任したことから始まります。この職にあった際、彼は一部の貴族の婦人たちの無秩序な生活ぶりを問題視し、これに対して罰金を科しました。この罰金によって得られた収益を用いて、彼はキルクス・マクシムスの近隣に、愛と美の女神であるウェヌスに捧げる神殿を建立しました。これは、単なる法執行に留まらず、公共事業や宗教的な献身に繋がる彼の一面を示しています。

最初の執政官として

紀元前292年、グルゲスは初めて執政官の座に就きました。この任期中、彼は自身の父であり、既に高名な軍人であったクィントゥス・ファビウス・マクシムス・ルリアヌスをレガトゥス（軍団長）として伴いました。父子で共に戦場に立つという珍しい構図の中で、グルゲスはサムニウム人の一部族であるペントリ族との戦いを指揮しました。当初、この戦いはどちらの側も決定的な勝利を得られないまま推移しましたが、その後の戦闘において、グルゲスは戦況を有利に進め、失地回復を果たし軍事的な名声を取り戻しました。彼はいくつかのサムニウムの都市を攻略し、その功績はローマにおける最高の栄誉である凱旋式をもって称えられました。この凱旋式は、勝利者たるグルゲスが戦車に乗り、傍らを高齢となった父ルリアヌスが騎馬で随伴するという、父子二代にわたる栄光を示す感動的な光景であったと伝えられています。

前執政官としての活動

翌紀元前291年も、グルゲスは前執政官（プロコンスル）として軍事指揮権（インペリウム）を保持し、サムニウムとの戦いを継続しました。ローマの伝えによれば、彼がコミニウムという都市を包囲していた際、当時の執政官ルキウス・ポストゥミウス・メゲッルスが彼の指揮権を剥奪し、グルゲスの軍を自らの指揮下に移したという逸話が残されています。しかし、公式な凱旋式の記録であるファスティによれば、グルゲスが凱旋式を挙行したのは、この前執政官時代の紀元前291年のことと記されており、この時期の彼の活動の重要性を示唆しています。

監察官就任

紀元前289年には、彼は監察官（ケンソル）の職に就いたと考えられています。監察官は市民の登録や資産評価、道徳の監督などを担う重要な役職であり、彼の経歴における多様性を示すものです。この時期に実施された国勢調査では、ローマの成年人口が27万2千人と記録されています。

二度目の執政官へ

さらに時を経て、紀元前276年、グルゲスは二度目の執政官に就任しました。この任期中にも彼は軍事的な成功を収め、サムニウム地方およびブルティウム地方における勝利を讃える二度目の凱旋式を挙行する栄誉を得ました。これは彼の軍人としての能力と、国家への貢献が長きにわたり評価されていたことを物語っています。

外交使節として

政治家としての役割も担い、紀元前273年には、ローマの特派使節団の一員として、当時のエジプトのプトレマイオス2世フィラデルフォス王のもとへと派遣されました。使命を終えローマに帰還した際、彼ら使節団はエジプト王から受け取った多くの贈り物を国家の公庫に納めようとしました。しかし、この申し出に対し、ローマ元老院は彼らが個人的にその贈り物を保持するよう命じたと伝えられています。これは、ローマの倫理観や、高潔さへの期待を示す興味深いエピソードです。

家族

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスは、共和政ローマ史上でも特に名高い人物の一人であるクィントゥス・ファビウス・マクシムス・ルリアヌスの息子です。ルリアヌスは度々執政官を務め、筆頭元老院議員（プリンケプス・セナトゥス）の地位にもありました。グルゲスは父の死後、その筆頭元老院議員の地位を継承したと考えられています。また、彼自身にも同名の子がおり、その子も後に紀元前265年に執政官を務めるなど、ファビウス家は親子三代にわたり共和政ローマの中枢で重要な役割を果たしました。

クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスは、軍事指揮官として、また政治家として多方面で活躍し、ローマの拡大と安定に貢献した人物であり、名門ファビウス家の名声をさらに高めた存在と言えるでしょう。