クサリヘビ科

クサリヘビ科（Viperidae）

科の概要

クサリヘビ科は、爬虫類の中でも有鱗目（ヘビやトカゲの仲間）に分類される一群です。アフリカ、ユーラシア、そして南北アメリカ大陸にわたり、非常に広範囲に分布しており、その多様性は世界の毒蛇全体の約4分の1を占めるともいわれています。この科に属するヘビの多くは毒を持ち、その形態や生態には様々な特徴が見られます。

特徴的な形態

クサリヘビ科のヘビは、一般的にずんぐりとした太い体つきをしており、多くの種では体表に網目のような複雑な模様が見られます。この模様が一見して鎖のようであることから、「クサリヘビ」という名前がついたとされています。

頭部は大きく、特徴的な三角形をしています。これは、顎の筋肉が非常に発達し、「えら」が張って見えるためです。この強靭な顎の力を使って、毒液を獲物へ効率的に注入することができます。

最も顕著な特徴の一つが、長く鋭い毒牙です。大型の種では2センチメートルほどの長さになることが多く、ガボンアダーのような特に大きな種では5センチメートルを超えることもあります。この毒牙は非常に長いため、口を閉じた状態ではそのまま納まりきりません。そこで、クサリヘビ科のヘビは、毒牙の根元が関節のように動く構造を持っており、普段は口の中へ折りたたんで収納しています。獲物を攻撃する際には、口を大きく開くと同時に上顎骨が回転し、毒牙が前方に直立して獲物に深く突き刺さる仕組みになっています。毒牙の内部には管が通っており、この管を通じて毒液が確実に注入されます。攻撃後、口を閉じれば毒牙は再び口内へ折りたたまれるようになっています。

体の大きさには大きな幅があり、最も大きな種であるブッシュマスターは全長が365センチメートルにも達しますが、ドワーフアダーのような小さな種ではわずか20センチメートルほどしかありません。また、ヒガシダイヤガラガラヘビは、計測された中で最も重い毒蛇の記録を持っています。

強力な毒と影響

クサリヘビ科のヘビが持つ毒のほとんどは、「出血毒」と呼ばれるタイプです。この毒には強力な消化酵素が含まれており、獲物の細胞組織を分解する作用があります。これは、捕らえた獲物を体内で効率的に消化する助けとなります。

クサリヘビに噛まれると、患部に激しい痛みと腫れが現れ、痛みが徐々に全身へと広がっていくのが典型的な症状です。さらに、皮下や内臓からの出血、過去の傷口からの再出血、腎臓の機能障害、吐き気、そして血便や血尿といった症状を引き起こすことがあります。毒が血管にダメージを与えることで、血圧が急激に低下するといった二次的な問題も発生します。

噛まれた場合の治療には、専用の血清が不可欠です。そのため、一刻も早く医療機関へ搬送されることが非常に重要です。神経麻痺を引き起こす神経毒に比べると、出血毒による即時の死亡率は一般的に低い傾向がありますが、組織の壊死を引き起こすなど、後遺症が重篤化しやすいという側面があります。場合によっては、噛まれた手足の切断に至るケースも少なくありません。

一部の非常に毒性の強い種では、出血毒に加えて神経毒の成分も併せ持つことがあります。

出血毒は、獲物をすぐに動けなくする神経毒とは異なり、毒液を注入しても獲物がすぐに倒れるわけではありません。そのため、クサリヘビ科のヘビは、毒を注入した後に獲物を追跡する必要があります。毒液に含まれる特定のタンパク質が、この追跡行動を助ける役割を果たしていることがわかっています。

生態と繁殖

クサリヘビ科のヘビは、熱帯や亜熱帯地域に多くの種が生息していますが、温帯や場合によっては亜寒帯といった涼しい地域にも適応した種が存在します。例えば、ヨーロッパクサリヘビは北緯60度を超えるような高緯度地域でも見られます。砂漠のような乾燥した環境に特化した種も知られています。

繁殖の形態については、卵を産む「卵生」の種と、母体内で卵を孵化させて子を産む「卵胎生」の種の両方が見られます。

多くのクサリヘビ科のヘビは、主にネズミやリスといった小型哺乳類、または鳥類などの恒温動物を捕食します。これは、マムシ亜科の多くの種が持つ、眼と鼻の間に位置する「ピット器官」と呼ばれる赤外線感知器官によって、獲物の体温を感知できる能力と関連しています。しかし、ヌママムシのようにカエル、トカゲ、魚類といった変温動物を主な餌とする種も存在します。

分類と日本に生息する種

クサリヘビ科は、世界の約800種から900種ほどの毒蛇のうち、およそ4分の1を占める大きなグループです。主な亜科として、眼と鼻の間にピット器官を持つ「マムシ亜科（Crotalinae）」と、それを持たない「クサリヘビ亜科（Viperinae）」に大きく分けられます。他にも、コブラバイパー亜科やナイトアダー亜科といった小さなグループも存在します。

日本にもこのクサリヘビ科のヘビが分布しており、身近な存在として知られるニホンマムシや、沖縄などに生息するハブ（ホンハブ、オキナワハブ、リュウキュウハブとも呼ばれる）などが含まれます。その他にも、ツシママムシ、ヒメハブ、サキシマハブ、トカラハブといった固有または地域性の強い種がいます。また、タイワンハブのように、人為的に持ち込まれた外来種も一部確認されています。

その危険性から、クサリヘビ科に属する一部のヘビは、動物の愛護及び管理に関する法律において「特定動物」に指定されており、飼育には許可が必要となります。

参考文献

- 『原色ワイド図鑑3 動物』学習研究社, 1984年
- クリス・マティソン『ヘビ大図鑑』森光社, 2000年
- 『爬虫類・両生類800図鑑第3版』ピーシーズ, 2002年
- 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』小学館, 2004年

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